企画

□浦原さんとまったり
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シンシンと降り続ける雪が傘に薄く積もって重さが増す。こんな日に出かけるんじゃなかったと後悔するが時既に遅し、あと3分も歩けばそこへ着いてしまう。呼び出しの連絡があって文句を言いながらも結局ここまで来ている私は相当彼のことが好きなのだろう。絶対に口にはしないけど。残りの距離なら濡れても構わないと傘を閉じたところで、こんな日に私を呼び出した男が目の前に現れた。


「やーっぱり傘さしてない」


防寒していない彼はさしている傘に私を入れて口元にあてていた扇子で軽く頭を小突いてくる。ムッと睨みつけても「早く行きましょ」と私の視線はすぐに行き場を失ってしまいそのまま彼の隣へ並んだ。


「来るんじゃなかった」

「どうせヒマだったでしょ」

「寝正月でもよかった」

「寝るんだったらウチでも良いッスよね」


ガラガラと開けられた入口から中へ入ればほんのり暖かい。奥の麩を開ければもっと暖かいだろうと早足で店内を通る。薄暗いそこは正月休みとなっているらしくシンと静まり返っていた。


「ジン太くん達は?」

「テッサイさんが初詣に連れて行ってくれてます」


こんな寒い日にご苦労なことだと思うも、私もここまで来ているのだから変わらない。どちらかと言うとテッサイさん達の方が有意義な過ごし方だろう、私はここへ来ても寝るつもりなのだから。
いつも賑やかな浦原商店が静かなのは違和感がある。たまに連絡してきて用もなしに呼び出す喜助さんからは今日も用件を伝えられることはない。どうしてこの人に連絡先を教えてしまったのだろうと昔は溜息を吐いていたものの、会えるから良いかと今となっては自分を許している。彼との空間は心地良い。もちろん友達といる時間も好きだけれど、それとは違った空気を纏える。少しだけドキドキしてたまに緊張して、バカにされることもあるけれど笑ってくれることに嬉しさを覚えるから。


「***サーン」


コートを脱いでいたところで後ろから抱きついてくる。これだ、私がドキドキする原因は。そういう関係でもないのにスキンシップが本当に多い。その度に緊張してしまうけれどそれがバレればケタケタと笑われる。良いけど、ちょっとムカつく。


「喜助さん、ハンガー」

「もっと照れましょうよ」

「充分照れてる。ハンガー」


私の気持ちに気付いていながらだから尚更質が悪い。それでも彼は何も言ってこないから、これは片想いだと確信している。こうやって私で遊んでいるのだろうけど、それでも良いと思ってしまっている私のこの恋の病はもはや末期だと思う。


「おやすみなさい」

「はい?早すぎッス」

「寝ても良いって言ったじゃん」

「言いましたがもっとこうあるでショ、すごろくとか」

「す ご ろ く」

「冗談ッス。羽根つきは?」

「外には出たくない」

「書き初めでもやりますか」

「もう寝てもいいかな」


暖かい部屋、もう慣れた空間。週に三度は来ているここで昼寝をすることに緊張はしない。たとえ彼とふたりきりであろうと、何かあるわけがないとわかっているからこそ安心して眠れる。
遊びたいならひとりで遊んでね、と炬燵に身体を半分入れて横になる。珍しく素直に返事をした彼はそのまま私の隣で横になった。


「え、」

「え?」

「喜助さんも寝るの?」

「いえ、アタシは遊びます」

「どういうこと」

「***サンで遊ぶんス」


ニタリと笑った顔は悪戯を思いついた時のそれだ。私の頭の下へ腕を入れて鼻がぶつかりそうなほど顔を近付けてくる。なるほどそういうことかと理解は出来たがあまりにも近い距離に心臓は煩く早鐘を打ち始めてしまった。だめだ、まんまとオモチャにされている。離れようとしても腕枕をしている曲げられた手にガッチリと後頭部を押さえられて移動することは出来そうにない。顔が熱い。だけど最大限の抵抗だと睨みつければ、さらに近付いてきた顔にギュッと目を閉じた。

一瞬、唇に柔らかい感触。

ちゅ、と小さなリップ音。

瞼を上げればケタケタと笑う喜助さんがいて、私は放心状態で。


「満足ッス、寝ましょうか」


何をされたのか頭が理解すれば心臓は破裂しそうなほど動き出す。眠れるわけないじゃないかと睨みつけても彼は既に瞼を閉じたあと。


「き、喜助さん」

「寝ましょうよ」


強く抱きしめられると彼の鼓動も聞こえてきて、私のと同じくらい早く鳴っていることに笑ってしまった。
やっぱり少し緊張するけれど、包まれる暖かさが心地良くて、感じる鼓動が嬉しくて。
彼の腕の中で眠りにつけば、夢もみることはなかった。





END
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1万打記念リクエスト/ゆきみ様





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