弱虫pdl

□誇らしさと嬉しさと、(5)
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「ミーヤミーヤ」

「んー?」

「見て見て、井尾谷くんからこんなん送られてきた」


差し出してきた携帯を覗き見た待宮に、小動物に囲まれる井尾谷の写真が映る。金城と荒北がバイトとなっている今日、明良の部屋があるマンションの近くの公園で2人はベンチに腰掛け夕食の相談をしていた。外に食べに行こうと携帯でお店を検索していたところに井尾谷から画像が送られてきたようで、「ふれあい動物園行って来たんだって」と微笑む明良に、彼はピシリと固まった直後震える身体で彼女の頭を両手で撫でた。


「オマエはほんっとにカワエエのォ!」

「わぁっ、も、ちょっと!」

くしゃくしゃにされる頭を守るように明良がその手を掴むが、「いたっ」と小さく声を上げた彼女に待宮はすぐに動きを止めた。


「すまん、手首か?」

「あ、ううん、なんでもない、気のせい」

「気のせいで痛いって言葉は出てこんじゃろ」

「ううん、気のせいだった」


やり過ぎたかと眉根を寄せる待宮に明良はヘラリと笑い、お腹空いたからとすぐに携帯へ視線を戻す。練習後で空腹なのは彼も同じだったため習うように携帯を弄り始めたが、そういえば明良との外食は久しぶりだなと思い出してはその手はすぐに止まってましった。

金城、荒北、待宮の3人全員がバイトの休みが被らないと明良の部屋でゴハンにならないため、滅多にないそのイベントのようなものは彼等にとってはすこぶる喜ばしいものだった。入学当初は明良が金城から離れない上に待宮は警戒視されていて、昨年のインターハイのこともあるからと本人も自覚していたが、慣れてきて一緒に行動することが当たり前になった最近では彼女が女生徒達と連むようになっていたのだ。金城以外を単独で部屋に上げようとしない明良は少し前まで荒北や待宮とも2人で外食することがあったが、部室で≪真滝明良女性友人攻略作戦≫の会議が開かれた日からは今日のようなことは久しぶりとなっていた。

隣で何を食べようかウキウキしている明良を目にして待宮の頬が自然と緩む。彼の無意識に伸びた手がわしゃわしゃと小さな頭を撫でると、彼女は鬱陶しそうにしながらも口元には笑みを浮かべていた。
だがそんな和やかな空気の中に、叫ぶような声が入ってきた。


「宮ァァァァァ」

「井尾谷?!」

「あ、明良ちゃぁぁぁん」

「い、井尾谷くん?!」


声の主はつい先程2人が画像で確認した男、井尾谷諒で、静岡に居るのはずのない彼に明良も待宮もこれでもかと目を見開く。しかもほんの数分前に"ふれあい動物園"の画像を送られたものだからか、彼女はメールの受信時間を確認しようと携帯へ指を滑らせた途端、勢いよく持ち上げられた。


「細っそ!1年で痩せすぎじゃ!」

「だ、だっこはなくない?」


頬を引き攣らせた明良のカーディガンを降ろすようにと下へ引くのは待宮で、ケラケラと笑う井尾谷へ呆れたように溜息を吐いた彼は彼女を背に隠すように立つ。「なんじゃなんじゃ」と目を細めた井尾谷が意味深な笑みを浮かべるが、機嫌を損ねたように見えた待宮はすぐにニカッと笑顔を見せた。


「いーびーたーにー!」

「宮ァァァァ!」


感動の再会なのか、目の前で男同士のハグを見せられた明良にはさっきまでの呆れた気持ちも拭い去られて口元に笑みが浮かぶ。高校3年間、同じ部で頑張ってきた気持ちは彼女にも痛いほどわかるため、微笑ましく思いながら携帯のカメラを起動し1枚だけその姿をメモリーに収めた。


「井尾谷くんが言ったとおり、ミーヤって優しかった」

「じゃろ?」

「井尾谷……なーんで真滝には連絡してワシに寄越さんのじゃ。エェ?」

「驚かせよォ思うたけェ!」


両手を腰にあてて高らかに笑う井尾谷を目にして、明良の頬がまたも無意識に綻ぶ。バイトが入っていたらどうするつもりだったのかと問えば「そこに行くつもりじゃった!」と何とも待宮のことが大好きな井尾谷に、電話で彼の話ばかりをするはずだなと漸く彼女は納得していた。


「仲よおやっとるみたいじゃのォ」


去年のインハイで手ェ摘まれとったのが嘘みたいじゃ!と笑う井尾谷に明良と待宮は苦笑を浮かべるが、夕食がまだだっために彼等の空腹は限界を迎えて鳴き出してしまった。


「ミーヤ、今晩広島焼きにしよ!」





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