弱虫pdl

□自慢であり誇りである。(21)
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「知ってた……て、え、知ってた……?」


目を丸くする巻島の前で、眉尻を下げて微笑む金城が眼鏡へと指をかけた。


「知ってたというより気付いた、だな。どことなく様子が変わったように見えた上に旅館でのお前と明良……俺が気付かないとでも思うか?」


インターハイ2日目、皆を信じることが出来なくなった明良に自信を取り戻させたのは巻島であり、謝罪に回る彼女に付き添ったのも彼だ。そんな2人の様子を見ていた金城が気付かないわけもなく、通常運転に戻った明良が皆で寝たいと3年部屋で横になったときも、もちろん巻島と同じ布団で眠りについたことに交際を知る田所は歯軋りをしながらも見守り、金城は確信を得ていた。合宿では2度も隣で寝ているのだから、明良も巻島も不自然ではないだろうと寄り添って寝息を立てていたが、周りからは既に何も無いようには見えなかったらしい。慣れた手つきでの腕枕や、巻島の胸へ顔を埋める明良の様子はどこからどう見ても恋人同士であり、穏やかに眠る2人に金城が問い質すことなど出来なかった。


「大方インハイに集中するために言わなかったってところだろ」

「……察しの通り」


夏休みでほぼ3年生しかいない校舎、人通りの少ない渡り廊下へ金城を呼び出した巻島の満を持した告白は、あっさりと受け入れられた。

明良への気持ちを知る者同士、気まずい空気が漂いセミの声だけが辺りに響く。巻島が掻きあげた前髪が指から抜けると同時に、小さく息を吐いた金城がゆっくりと口を開いた。



「……よかった、巻島で」

他の誰かじゃなく、お前でよかった。



悔しくないと言えば嘘になるが、それでも金城は心から安心している。誰にも渡したくないという考えはあったものの、田所か巻島が彼女の隣に居てくれるなら、見守っていけると思えていた。


「すぐ言わなくて悪かったな」

「ああ、まったくだ」


微笑を浮かべる2人の間を爽やかな風が吹き抜ける。


「泣かせるなよ」


トン、と巻島の肩へ拳を入れた金城が踵を返し、また柔らかい風が緑色の髪を靡かせる。空を仰いだ巻島は微かに嘲笑を浮かべ、ぽつり、と小さく呟いた。


「それは……約束出来ねぇショ」





:::





「聞いたみてぇだな」


部室の壁に背を預けていた田所が、金城を目にするなり微笑んだ。


「知ってたのか」

「インハイ前にちょっとな。まあわかってたことだ、いずれこうなってただろうよ」


そうだな、と微笑む金城に田所は無邪気にはにかみ、「走るぞ!」と豪快に部室の扉を開く。そこには既に手嶋や青八木、古賀といった2年生の面々が着替えており、制服のままパイプ椅子に腰掛けた明良が呆けたように宙を仰いでいた。


「昨日はよく寝たのか」


目の前の愛しい人がもう誰かのものだということに僅かに胸は痛むも、平常心で声をかけた金城は明良の頭をいつものように撫でる。ぼーっとした瞳が彼を捉えると、立ち上がった彼女は微かに表情を曇らせた。


「金城、私今日1人で走って来てもいい?」


覇気のない明良の声に、手嶋達も不思議そうに目を向ける。


「バイクで来たのか」

「うん、峰ヶ山登りたい」


皆と一緒だと邪魔になるから、と視線を落とした明良に、いつもの笑顔は見られない。インターハイも優勝し、疲れているならメカ弄りに没頭しろと言いたい金城だったが、両手でスカートを握る彼女の様子に疑問を持ちながらも承諾せざるを得なかった。







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