弱虫pdl

□自慢であり誇りである。(16)
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「雷も鳴ってるし今日はもう終わりだね」


夏休み、日曜の朝から練習をしていた総北高校自転車競技部は、部室で昼食を摂っているところで大きな雨音に全員が目を合わせ、後に聞こえた雷鳴により午後の練習は中止にすると決めた。


「こういう時のために置き傘!用意してる!」

「さすがっすわ真滝センパイ!」

「でも折り畳み傘合わせても人数分無いんだよね、ごめん」

「用意するなら数考えろっショ」

「ゼロよりマシでしょ!」


明良の大声に耳を塞いだ巻島を放置し、家が同じ方向の人と一緒に使ってとマネージャー2人が傘を配り始める。車を呼ぶと言う今泉を恨めしげに見つめた明良はくるりと振り返って巻島を視界に捉えた。


「はいはい、俺も呼ぶっショ」


呆れたように言いながらも巻島の口は薄い弧を描き、仕方ないなと携帯を手にする。


「みんな家着いたらメールでも良いから連絡してね、ドシャ降りだし視界も悪いから車に気をつけて、あと傘はあんまり高く持っちゃダメだよ、雷様に狙われるかもしれないから、あと、」

「明良、いい加減帰してやれ、子供じゃないんだからわかるっショ」


苦笑を浮かべた部員達に明良はケロリと笑って手を振り見送る。部室には明良と巻島、ローラーを回し始めた金城と、車を待つ今泉が残っていた。


「金城はまだ残るの?」

「ああ、予報にもない雨だ、時機に弱まるだろ」

「え、じゃあ私も、」

「お前は巻島のとこの世話になれ、雨の中寝られても困る」

「そんなに器用じゃない」


頬を膨らませた明良を巻島は「お前立ったまま寝るのかヨ」と笑い飛ばし、既に我関せずといった様子の金城は黙々とペダルを回す。そんな3年生3人を羨ましそうに見ながら今泉が呆れたように小さく溜息を吐いたところで迎えの車が2台到着した。



:::



「あ、そうだ今日日曜だ」


巻島の家の車に乗せてもらった明良は届いたメールを確認してすぐ思い出したように顔を上げた。


「ん?」

「ちょっとね」


後部座席に2人で座る巻島と明良を見て、運転手はバックミラーを微笑ましく調整する。「ウチ来るか?」という巻島の声に目を丸くした運転手だったが「今日は帰んなきゃだ」と返した明良の言葉にあからさまに肩を落とした。

明良の家の前で停車し、助手席にある傘を差した運転手が後部座席の扉を開ける。


「あ、すみません、ありがとうございます」

「いえ、とんでもありません」


直立した運転手の低い声が上から降ってくるも、傘に当たった雨音で明良の耳には小さく届く。これなら聞こえないし車内も見えないかと、降りようとしていたところで身体を反転させた。


「ほんとは一緒に居たかった」


小さな声と小さなリップ音。巻島の頬に一瞬の口付けを残し、「ありがと」と笑顔で降りた明良は運転手にも一礼して玄関の屋根の下まで走る。やられた、と頭を抱える巻島が閉められた扉の窓から外を見れば、雨粒で歪んだ明良が手を振っているのが見えた。


「お美しい方ですね」


発進した車には運転手の声が響く。短い返事を返す巻島をバックミラー越しに捉え、照れた表情に微笑を浮かべる。


「渡英のお話は、」

「……もうしてるっショ」


巻島が寂しげな表情に変わったことに、運転手もそれから声をかけられなかった。






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