弱虫pdl

□自慢であり誇りである。(15)
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「小野田、今日は朝40キロで終わって?午後からガッツリ登坂見るから」

「は、はい」


小野田の早朝練習に付き添った明良は一言だけ告げてすぐにその場を後にした。どことなくいつもより笑顔が少ない彼女に小野田は不思議なプレッシャーを感じながらも返事をする。「おつかれさま」と言い残しひとり走り出した明良の背中を、小野田は心配そうに見つめながら見送った。

峰ヶ山の山頂まで登った明良は愛車を柵へ立掛け伸びをする。そろそろ部活へ行く支度をしないと、と動き出したところでポケットにある携帯が着信を知らせた。


『明良、今どこにいる』


電話は金城。走り終わった後なのか、ローラーを回した後なのか、少しばかり息の切れた声が明良の耳へ入る。


「峰ヶ山。今から帰ろうかなって」

『早めに来れるか?』

「どうしたの?」

『少し話がしたい』

「部室でいい?」

『ああ』


手短な用件だけの電話は金城らしい、とすぐに下山して家へと戻る。手早くシャワーを浴びて支度をしながら朝から話とは珍しいなと学校へと急いだ。






「田所に聞いたんだが」

「ん?」

「留学も考えてるのか?」

「え、」


そんな話したっけ、と思考を巡らせる明良に、金城は憂鬱な気持ちを悟られないよう冷静な声音で言葉を続ける。「昨日電話で話したが、」と言いかけたところで、それは明良によって遮られた。


「しないよ」


強く、だけど安心させるような目が金城に向けられる。最後のインターハイだけに集中したいと願うものの、最高学年、進路を決めなければならない3年生という立場において彼等は否が応でもそれは考えなければならないことである。金城の胸中には明良が遠く離れた地へ行ってしまうという不安、自分のものではないというのに彼女が目の届かない所へ行ってしまうのが気持ちを鎮めてはくれなかった。


「田所は留学も出来るなって言ってただけ。私も少しは考えたけど……昨日の電話どおり、答えは出たから」

「……そうか」


ふっと笑みを浮かべた金城に明良はきょとんとした表情を浮かべ、「え、それだけ?」と朝から呼び出されたことに不満げに眉を寄せた。


「大事な話だと思って焦って来たのに」


頬を膨らませた彼女の頭を優しく撫で「すまない」と然程申し訳無さそうにもせず謝罪の言葉を述べる。ベンチから明良を立ち上がらせると、そっと彼女の頬へ手を添え、下唇を親指でなぞるとその手でまたも頭を撫でた。


「俺にとっては大事なことだ」


安堵の声が部室に響く。

外には、扉に背を預けた巻島が薄く苦笑を浮かべていた。






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