弱虫pdl

□自慢であり誇りである。(13)
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カーテンの隙間から差し込む陽射しで目が覚めた巻島は、左腕にある重みに幸せを噛み締めた。今日は誰の朝練にも付き合うなと忠告していた彼の隣では、明良が穏やかな寝息を立てて眠っている。合宿でもそれは経験したものの、彼女は誰よりも早く起きていたものだから起き抜けに寝顔を拝むのは今日が初めてだ。


「んっ、」


耳を撫でれば少しばかり掠れた声が明良の鼻を抜けて発せられる。学校も休みだし昨晩は随分ムリをさせてしまった、今日くらいはゆっくり寝かせておこうと巻島はそっと左腕を引き抜く。ひとつになれた嬉しさと淫らな明良を思い出しながら巻島がベッドを出ると、すぐに携帯が着信を知らせた。


「んぁ?俺ン家?!」


寝室を出た巻島がすぐに電話に出れば着信源は田所で、今年の正月に開催された箱根駅伝のビデオを見ようという誘い。明良がいるからと断ろうとしたものの、それは既に決定事項だったようで彼の耳には通話を終える無機質な一定の音だけしか入って来なかった。



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「俺の許可無くここから出るなよォ、そして部屋のもんも勝手にいじるなっショ」


田所、今泉、小野田、鳴子を部屋へ招き入れ、テレビを用意した巻島は変なスリルを少しばかり楽しんでいた。寝室には明良がいる、「もう一つ扉がある」という鳴子の声に「気にするな」とだけ返し、彼女が起きてきたときには全員がパニックになるかもしれないがそれはそれで面白いだろう、と巻島の口端が吊り上がる。なにせ明良は巻島のTシャツ1枚だ、下着は身に着けているものの、それはショーツのみで双丘を覆うものは昨晩巻島が剥ぎ取ったまま。襟元が広い巻島のシャツは明良の肩を簡単に露出させてしまうものだった。

ビデオを見終わった後、厳しいインターハイについてを巻島と田所が言を生していれば、話は去年のそれについて語られることになる。箱根学園の福富が落車、それに巻き込まれて総北の金城も落車したという3年生の話に、今泉、小野田、鳴子は目を丸くした。






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一方部室で同じように昨年のインターハイを思い出していた金城のもとへ、自主練習を終えた手嶋と青八木が訪れていた。


「あ、金城さん」

「もう走って大丈夫なのか」

「はい、そんなにスピードは出さずに、サイクリング程度で」


汗を拭った青八木の隣で、手嶋は静かに金城を見据える。ずっと気になっていたことだと意を決した問いは、明良のことだった。


「去年のインハイ、明良さんの血って……なんのことですか」


同様に興味を示す青八木も一瞥し、金城はゆっくり口を開いた。





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