弱虫pdl

□自慢であり誇りである。(12)
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「昨日はごめんなさい」

「………クハッ」


翌日の朝、部室に集まった面々に深く頭を下げた明良は、隅で肩を震わせて笑う巻島に洗いたてのタオルを投げた。


「いや、すまない、昨日は俺が悪かった」

「ううん、金城が思うこと当たり前だと思うもん、怒鳴るほどのことじゃなかったのに、空気悪くしてごめんね」


いつもの空気を纏う明良に、部員は皆一様にほっと胸を撫で下ろす。徐に全員から差し出されたビニール袋に明良が首を傾げて中を見ると、パアッと明るくなる表情に皆の頬も綻んだ。


「えっ、皆買って来てくれたの?ありがとう!小野田もよく知ってたね!」


とりあえず明良のご機嫌を取ろうと全員が考えたことは同じだったようで、お気に入りのグミを手にした明良は巻島の元へウキウキと駆け寄る。「見てよ巻島!みんなすごい!こんなとこでも一致団結してる!」と満面の笑みを浮かべる明良に、巻島は優しくその頭を撫でた。


「単純っショ」

「単純で結構。巻島以外大スキ」

「おいコラ、俺はもう昨日あげたっショ」


ニヤリと笑う巻島にムッとした表情で明良が噛み付く。キスのことだとは知らない部員達だったが何のことだと突っ込む気はさらさらない。


「あれは私があげたんでしょ!」

「俺っショ!」

「私!」


ガルルル、獣が睨み合うかのような2人に他の面々はそれを微笑ましく眺める。やはり明良には元気で居て欲しい、巻島と言い合っていればいずれ笑ってくれるのだからと皆が思っていれば、ほら、やっぱり、と明良の満面の笑顔を目にして力が湧いた。


「練習だ!」


金城の声に各々が元気良く返事をする中に、明良の声も高らかに上がっていた。







:::







「明良ちゃんが全く電話に出ない……」

「あれ?ボクの電話には出ますよ?」

「うるさいぞ泉田!ていうか明良ちゃんと親戚とかなんで黙ってた!」


箱根学園自転車競技部には、真滝明良の名前は既に知れ渡っていた。


「明良チャンってあれだろォ?総北の女マネ」

「物凄い声出して応援してるよな、ある意味選手より目立ってる」

「たまにコースの近道クロスバイクで走ってるって女の子が言ってましたよ?」

「くぉら真波!俺より先に女子の話を出すな!紛らわしいだろ!」


インターハイレギュラーメンバーが部室のベンチに腰掛け言葉を交わす。話題は真滝明良、総北高校自転車競技部マネージャーであり、このメンバーの中にいる泉田塔一郎の従姉妹である。


「昨日呼べって言ったのに結局来ないし!」

「東堂さん、あの時間からこっちに来させるのは可哀想ですよ、明良も忙しいですし」

「巻ちゃんなんて明良ちゃんをまるで自分のもののように……!」

「ああ、でも付き合ってはないと思いますよ?彼氏いないって以前言ってましたから」


むしろ明良なら全員に可愛がられると思います、と付け足した泉田に、東堂は「俺も可愛がりたいのだ!」と声を張り上げる。
そんな様子を面白くなさそうに見る荒北が黙りこくっている福富へ声をかけると、彼は大きく息を吐いて喉を揺らした。


「真滝には選手にも劣らない強い勝つ意志がある。昨年のインターハイで痛いほどわかった、総北には有能なマネージャーがいる」


ピリ、と鋭い空気が漂うが、メンバーは全員怯むことなく口端を吊り上げる。


「だが、勝つのはハコガクだ」


当たり前だろ、と全員が余裕の笑みを浮かべる。
どれだけ辛い練習を重ねてきただろう、思い出せば思い出すほど負ける気など全くしなかった。


「所詮マネージャーでしょォ、戦うのは選手だ。敵なんざいねーヨ」


荒北の言葉に、皆が大きく頷いた。







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