弱虫pdl

□自慢であり誇りである。(11)
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「え、田所ずっと寝てたの?だったら私と一緒にサイクリングしてくれたらよかったのに」


合宿中の授業を埋める補習を終えた面々が部室へ向かえば、既に明良が日誌を前にしていた。


「なんや、真滝センパイ補習出てないんか?」

「コイツは通常授業も別の問題集解かされるレベル、T大理VもA判定っショ」


だから補習免除、と言う巻島に今泉が目を丸くする。成績も全国トップクラスを誇る生徒だからと教師達も明良の我侭、車を出して欲しいという要求を尽く承諾していた。T大理V?と頭上に疑問符をいくつも並べる鳴子にクスリと微笑んだ明良だったが、その表情には影があった。


「大学……まだ決めてないんだけどね」

「ガハハハ!明良なら思い切って留学も出来るんじゃねーか?」


田所の言葉にビクリと身体を強張らせた明良を見て、巻島も表情を曇らせた。







─────

合宿最終日、兄との電話を明良に聞かれた巻島は、全てを彼女に話していた。インターハイが終われば単位を前倒してイギリスへ発つ。黙って話を聞いていた明良だったが、その目には巻島が気付かないくらい薄っすらと涙が浮かび、何も言わずにお風呂まで駆けては勢いよく湯船に飛び込んだ。


「インハイ終わったらイギリスって……もう半年も無いじゃん……」


部屋へ戻れば心配していた田所がフラついた明良の身体を受け止め、金城はスノーパックをタオルに巻いてその上に彼女を横にする。


「温まって来いと言ったがのぼせるまで入るな」

「ガハハハ!まあ良かったじゃねーか溺れてなくて」


二人の声が耳に入るも明良の頭の中は巻島のことが占めていて、荒い息遣いと共に口から漏れたのは弱々しくも彼の名前だった。


「まき、しまぁ……」

「……金城、コイツ今日は俺と寝かせて」


順番的に俺だろ!と叫ぶ田所を一蹴し、金城の布団から明良を横抱きに抱え上げる。すぐにシャツを握った彼女の手は恐怖を感じているように小刻みに震えていた。


「何かあったのか」

「いや、なーんもないっショ」


そっと布団へ下ろしても明良がシャツを離すことはなく、巻島はその隣へ横になる。不思議そうに見守る金城と田所の視線から逃げるように、彼は布団を頭から被った。
毛布にくるまり暗い中でまだ僅かに湿っている明良の頭を優しく撫で続ければ、明りが消された音と田所のイビキ、暫くして金城の寝息が聞こえてきて全員が寝静まったとわかる。震えが止まった明良の手は未だに巻島のシャツを握り締めていて、テーピングも巻かれていないそれに巻島は自らの手をそっと重ねた。


「まきしま、」

「明良?起きてんのか」

「……行かな、で、」


ドクン、巻島の心臓が大きく跳ねる。
頭を撫でていた手も止まってしまい行き場に困ったようにふらついたが、間近で聞こえる寝息に彼は小さく息を吐いた。


「寝言……ショォ」


再び頭を撫でれば胸に擦り寄ってくる彼女を抱き締め、驚かせた罰だと額にキスを落とした。

─────








「……きしま、巻島!」

「うおお金城、大声出すなっショ」

「さっきから何度も呼んでいたが」

「ああ、ワルイ、考えごとっショ」


合宿最終日のことを思い出していた巻島が辺りを見渡すと、総北のジャージを身に纏った1年生が目に入った。「似合う似合う!」と笑顔で小野田の頭を撫でる明良に先程の影は見られず、すぐに手嶋と青八木のもとへ駆けて行く。サポートメンバーに幹と杉元を加え、「がんばるぞー!」と無邪気に拳を掲げる明良の姿に巻島は微笑を浮かべた。





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