弱虫pdl

□自慢であり誇りである。(6)
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「どーだ田所、これでも私のことバカって言い続ける?」


定期考査を終えた総北高校は各部活が再活動していた。自転車競技部も例に漏れず部員が続々と部室へ集まる。手嶋と青八木が入口の扉を開けると中ではテーブルの上で何枚もの試験解答用紙を広げた明良がふんぞり返って田所を見下していた。


「相変わらず異常だな」

「悔しい?ねえ悔しい?」


後から入ってきた杉元は前に立つ手嶋と青八木が目を見合わせて苦笑を浮かべていることを不思議に思い、珍しく寝ていない明良が何をしているのかとそのテーブルを覗き込んだ。


「えっ?!なんですかこの点数!」


満点が並ぶ解答用紙を前にして杉元は目を丸くする。ぐうの音も出ないといった様子の田所は「へーへー敵いませんよ」と着替え始めた。


「3年生もうテスト返ってきたんですか?」


手嶋がロッカーを開けながら田所へ問うた。


「いや、明良だけだろ、大概合ってるから採点楽なんだと」

「あの人の頭って一体どうなってるんですかね」


策士と言われる自分ですらついていけないと言う手嶋はその点においても明良に憧れている。こうやってふざけて田所をバカにすることはあっても、普段からその学力をひけらかすことは無い上に他人を褒めて伸ばす。羨ましいと思うところは素直に羨ましいと伝え、間違っていると言われれば改善しようと尽くす、明良は頭脳明晰だが近付き難いタイプだとは誰からも思われていなかった。


「早く杉元も着替えて、自転車乗ってるとこ見たい」

「え!僕のですか!?」

「ううん、みんなの」


ニッコリと微笑む明良とは真逆に杉元の肩がズンと落ちる。それを見て笑う田所の隣で手嶋は明良へと声をかけた。


「監督も他の先生も車出せないんじゃないですか?試験採点で」


カチカチとビンディングシューズの音を心地良く耳にしながら、明良は微笑みながら言葉を返す。


「うん、外には付いていけないから、ローラーでいいの」


それで充分、と笑う明良の周りで、手嶋にはキラキラした粒が弾けているように見えた。


「すーぎーもーと、ほら早く、手伝うから」

「え、あ、着替え手伝ってもらうとか、僕そんな、」

「時間もったいないじゃん、はい脱いで脱いで」

「ひぃぃいいいぃいぃ」


叫ぶ杉元の服を無理やり脱がせようとする楽しそうな明良を止めたのは、後から入ってきたタマムシ色の髪をした男だった。





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