弱虫pdl

□自慢であり誇りである。(9)
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「熱い、」


アラームも無しに3時に目を覚ました明良は自分の身体が抱き締められていることですぐに覚醒した。
目の前には巻島の鼻があり頭の下には彼の腕、背中にもぐるりともう片方の腕が回されており、明良自身も巻島の腰を抱いている。もぞもぞと腕を解いて布団から出れば火照った身体に冷気が刺す。


「寒い、」


まだ誰も起きてくることはないだろうともう一度布団の中へ潜り込み巻島の胸へ頭を寄せる。彼のシャツを握って目を閉じたが既に覚醒してしまった頭も身体も睡魔を呼び寄せることはなかった。


「んぁ、明良?」

「もうちょっとだけ、」


寝惚けている巻島の声に明良が返せば、解かれていた腕がまたも彼女を抱き締める。長い腕は難なく明良の身体を包み込み、彼女の髪を優しく撫でる。無意識。巻島はまだ目が覚めていなかった。
頭上から巻島の静かな寝息が聞こえ、明良の口が弧を描く。意識し始めたのはほんの最近、彼女が初めて異性に対し胸が跳ねたのは巻島が髪にキスを落とした時だった。恋愛経験が無いというより異性を好きになったことがない明良にとってそれは至極焦りと不安を抱くもので、この気持ちがなんなのかとその日は夜通し考えていた。思い出せば思い出すほど自分は巻島を気にかけていると気が付き、友達のような母親に相談してみれば「あんたそれ恋でしょ」なんてあっけらかんな返事を返された。そうかこれが恋なのかと嬉しくなった明良だったがその相手が巻島ということに少しだけ不満を覚えたのも事実。言い合いなんて毎日のものでときめいたのも一度だけ。信じられない、と頭を横に振るのもほぼ毎日になっていた。


「裕介、」


返事はない。疲れて眠っているのだから。それでも明良は自分が口にした久しぶりの呼び方にドクドクと心臓は早鐘を打っていることに気が付き、途端に触れている部分が熱を持ち始めては納得せざるを得なかった。
部員と触れ合うことなど当たり前になっていて誰と寝ようと緊張することはないと思っていたのに、明良は今たしかに緊張している。心臓の音が聞こえて起こしてしまいそうだと、彼女はすぐに布団から出た。


電気は点けられないからと踊り場に出て日誌をつける。皆が寝ている間にマッサージしてやろうかと考えたが怒る主将が頭に浮かんでは明良は断念する外ならない。寝ている間にかいた汗が気持ち悪くて施設の者に問い合わせればシャワーは使えるとのことで、明良はスキップにも似た足取りで3年部屋へ戻った。


「あ、金城」


ごめん起こしちゃった?と荷物を漁っていた明良はタオルを取り出すと同時に起き上がった金城に気が付いた。


「早いな」

「ちょっとシャワー浴びてくる、準備はしっかりするから」


それだけ言って笑顔で部屋を出た明良の背を見送り、金城は巻島へと視線を移す。まだ寝ている片腕は伸ばされたまま、そこに明良を寝かせていたのかと思うと彼は悔しく思ったが、機嫌が良いのであろう彼女の顔を思い出せば自虐的な笑みを浮かべる。金城が思うことは、既に確信に近かった。





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