弱虫pdl

□自慢であり誇りである。(7)
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「え、今年私も行くの?」


県予選で危なげなくインターハイ出場を決めた総北高校自転車競技部は、既に毎年恒例の合宿準備を開始した。


「ああ、マネージャーは寒咲を残す」

「わかった」


4日間で何をするのか知っている明良は内容を聞かずに大きく頷く。だけどそれだけじゃ面白くないと考え、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「今泉くんと鳴子と小野田、あの3人の自転車ちょっと弄ろう」

「弄る……?」

「強くなってもらうって言ってたじゃん」


今日の練習を終えて全員のマッサージを終えた明良の手元には部の日誌があり、それを閉じて考える。今までの今泉と鳴子と小野田の走りを伸ばすハンデ、成長させるハンデ、と明良は思考を巡らせ、スッと空気が変わったことに金城は目を細めた。


「私なら、今泉くんの自転車からシフターをはずす、ギアチェンジ無し。鳴子はハンドル変えよう、下ハン無し。小野田はホイールかバー自体を重くする、もっともっと回させる」


明良の科白に、金城はふっと静かに笑う。


「結構なハンデだな、1000km走破も危うくなる」

「それくらいしないと。インハイは厳しい」

「選手より頼もしいな」

「お、ポイントアップ?」

「お前はもともとマックスだ」


ふわりと笑う明良の頭を撫でた金城はすぐに踵を返して部室を後にする。残った明良は初めての合宿に無邪気に心を躍らせた。



:::



合宿当日、施設へ向かうバス内は、どんな場所かと明良同様初めての合宿に鳴子や小野田が田所と話す後ろで、彼女は終始頬を膨らませていた。


「お前ココは寝るとこっショ」

「イライラして眠れない」

「ンだそりゃ」


通路を挟んで明良の隣の座席には巻島が座っている。窓枠に肘をついて外を眺める明良は、夜が不安で堪らなかった。
途中、小野田のためにバスが止まり巻島が明良の隣の席へ移動し、「今のうちに寝とけっショ」と声をかけ頭を無理やり自分の肩へ傾けようとするが彼女は首を横に振るばかり。その表情は怒っているというよりも些か不安げに眉尻を下げていた。


「昨日何時だ」

「寝てない」

「バカっショ」

「バカ言うな」

「だから寝てろって」

「だって、」


言葉を詰まらせた明良に巻島は顔を覗き込む。口を尖らせた顔は金城を睨んでいるようだった。


「究極まで眠くなったら寝れる」

「今は究極じゃないのかヨ」

「夜にとってる」

「はァ?」


またも窓の外へ目を戻した明良は意地でも寝ないといった様子で、後で金城に事情を聞いてみようと巻島は音楽プレイヤーのイヤホンを耳にさした。





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