弱虫pdl

□自慢であり誇りである。(5)
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「ねえ巻島、最近知らない番号からやたら電話かかってくるんだけどこれ誰だかわかる?」

「はァ?」


昼休みの教室でずいっと差し出してきた明良の携帯には巻島に見覚えのある番号が表示されていた。紛れもなく自分が削除した人物の番号だと暴露したくない巻島は、椅子を後ろへ傾けながら「さあ?」とだけ返す。だが3年間同じクラス、同じ部活の明良はそれが嘘だとすぐに察した。


「だれ」

「知らないっショ」

「じゃあかける」

「やめなさい」

「じゃあだれ。あ!また!」


明良の弁当から卵焼きを摘んで一瞬で口の中へ放り込んだ巻島はペロリとその指を舐めてあからさまに嫌そうな顔をしてから口を開いた。


「東堂」

「なに勝手に消してんの」


不機嫌な顔をして言う明良に「だってー」とパンを片手に椅子をまた後ろへ傾ける巻島は、睨むように彼女を見据えて椅子を戻す。カタン、と音と同時に2人の鼻が数センチのところまで近付き、ニヤリと意味深に笑う巻島に明良は目を細めた。


「べつにイイっショ、明良がアイツと連絡取る必要はない」

「消したってあっちは知ってんだから意味ないじゃん」

「消せっつったショ」

「それで消しても知る手段はある」

「俺は教えない」

「でもハコガクには私の従兄弟がいる」

「……はァ!?」


大声を上げて驚く巻島とは対照的に明良は実に落ち着いた面持ちで弁当へ箸を付ける。昼休みのざわついた教室にも巻島の声は響いたようで周りの目はチラチラと2人を捉えていた。


「聞いてないっショ」

「言ってないもん」

「昨日言ってたひとつ下のってヤツ?」

「そう、自転車部」

「しかも自転車部って……名前は?!」

「言ったってわかんないよ去年インハイ出てないし」


レースでは最近名前上がってるけど、と付け足した明良は両掌を合わせて「ごちそうさま」と弁当をしまい始める。ポカンとした巻島のパンは一向に減らず、それを持っている手首を明良が引き寄せたかと思えばそれにパクリと噛み付いた。


「卵焼きの分ね」

「ちょ、パンとか全部やるっショ、名前」

「塔一郎。……泉田塔一郎だよ、知らないでしょ?」

「……知らない」


でしょ?と言う明良はそのまま巻島の机の上でノートを広げ、昨日の練習をブツブツ呟きながら思い出す。昨晩は睡魔に負けて3時に寝てしまいまとめが済んでいなかった。
知らない名前を出されて再度パンへ口を付けた巻島はとりあえずあの箱根学園の自転車部に彼女の身内がいることだけが気がかりだった。昨年のインターハイを思い出しては彼女の口許へと目がいく。白い肌を伝う赤い血の記憶は今でも巻島の脳裏にはっきりと焼き付いていた。





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