「え、あれ、真滝さん?!」 「おっす」 「真滝さんも、え、ロードレーサーに、」 朝練をしていた小野田が鳴子と今泉を見送り、2人にそれを内緒にしろと言われて走っていれば、暫くしたところで自転車に乗る明良を見つけた。 「私のはクロスだよ、ハイブリッド。ロードレーサーじゃなーいのっ」 下ハンで漕がせてもらったときコケたもん、と笑う明良の自転車は綺麗に整備された澄んだ青色のクロスバイクだ。使いこなせないというドロップバーとは異なるブルホーンバーで、タイヤもロードレーサーより小ぶりのそれは明良の外観にも似合うメカ。 「私の愛車、センちゃん」 「セン、ちゃん」 センチュリオンを乗りこなす明良は、ニッコリと笑って風を受ける。靡いた髪は小野田に巻島を思い出させ、何かを言いかけるも一向に声は出なかった。 「小野田も朝練?」 「あ、はい、真滝さんは」 「私は鳴子見てたの、昨日コース聞いといたから」 一緒に走ることは出来ないからと近道を使って何度かコースに先回りし「踏め!回せ!」と大声を上げてきたと言う明良は、思い出したようにケラケラ笑って小野田を見遣る。どうしたんですか、と不思議そうな小野田に、明良はイタズラ顔で口端を吊り上げていた。 「小野田も会ったでしょ?鳴子と今泉くん」 「あ、はい、つい先ほど」 「おんなじこと言ってなかった?」 「あ、言ってました。まったく同じこと」 「私も言われたの。お互いに教えてあげたくて堪んないよね」 「ええぇぇぇええ」 顔を青くする小野田を見てまたも笑う明良はボトルを手に取り喉を潤す。冗談だよ、とギアを上げてスピードが増した明良を、小野田はホッと胸を撫で下ろして追いかけた。スピードは20km/h。サイクルコンピューターから前方へ視線を戻した小野田にはヘルメットを外す明良が映った。 「うぁ、真滝さん、ヘルメット取っちゃうんですか?」 「風、全部で受けたくて。もうすぐ家だし、いいかなって」 ペロ、と少しだけ舌を出した明良は「そんなにスピードも出してないから」と身体を起こす。向かい風は髪を持ち上げ颯爽と後ろへ流れさらに彼女を美しく魅せる。風の抵抗を受けているというのに、明良は気持ちよさそうに満足げな顔をしていた。 「あ、これ金城には内緒ね、カブト無しで走ったら怒られるから」 みんなの秘密ばっかりもってるね、と笑う明良に、小野田は笑顔で頷いた。 |