黒子のバスケ short

□俺の隣で
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「ねえ、それ鬱陶しい」


細めた目で睨むように俺を見ながらそう言ってきたのは、最近席替えをして離れてしまっった明良っちだ。隣にいた頃は授業中にお絵かきしりとりなんかして「何が描かれてるのかわかんない」なんて言い合いながら笑っていたというのに、ほんの数メートル離れただけで態度は一変、目が合う度に意味も無くウインクすると呆れたような顔をされてしまう。

そして今日この言葉だ。

昼休みにごった返す食堂へ行く途中、遠くに笠松センパイ達バスケ部の面々を見つけたけれど、その後ろに小さな背中が見えてそっちの肩へ手をかけた。驚きもせず振り向いた明良っちに躊躇なくキメ顔を向けると、彼女は小さく溜息を吐いてギロリと俺を見上げ、 その言葉を 口にしたのである。


「鬱陶しいってヒドイ!」

「片目だけ閉じれる自慢?私が出来ないからってバカにしてる?」

「え、明良っち出来ないの?!」

「出来ないの!」


だっせー!なんて言いながら笑っていればいつの間にか目の前には怪訝な顔をしたバスケ部のセンパイ達しかいなくて、思いきりバカにしていた明良っちは居なくなっていた。1人で大笑いしていたことを不審に思ったのか、さっき彼女に向けられたような目で笠松センパイにも見られたけれど、俺はそんなことより彼女の行方が気になって仕方がない。辺りを見渡してみても人だらけの食堂で小さな彼女を見つけることは出来ず、諦めかけたその時、くいっと後ろから制服を引かれて今度は俺が振り返った。


「黄瀬、一緒に食べよ」


声がする方へ目を向けると、本当に久しぶりに見たような、明良っちの笑顔が俺の視界へ入った。途端に胸が小さく音を立てたのは気のせいではないと思う。彼女はこんなに可愛かったかな。





:::





「最近冷たいから嫌われたのかと思った」


食堂の端の端、誰がやったのかわからない破かれたカーテンのせいで陽の光を遮断するものが無いここは、人気が無いことでも有名だ。
2人用の小さなテーブルで向き合って座った俺達は初めて一緒に昼食を摂るというのに違和感を微塵も感じない。チャーハンを掬おうとれんげを手にしていた明良っちの手だけが、俺の言葉の直後に違和感大ありでピタリと止まった。


「……嫌ってたらお昼誘わない」

「たしかに」

「でも物凄く勇気は出した」


周りの女子 の視線が痛い、と続けた彼女はチャーハンを口へ運びながらそう言う。授業中にゲラゲラと声を出し過ぎて笑っていた時、2人して注意を受けてからクラスメイトには仲が良いと思われていると考えていたが、それはどうも違ったらしい。好奇な目を向けてくる者もいるが、大半はこちらを見ながらヒソヒソと話す女子生徒ばかりのようだ。


「俺モテちゃってゴメンね」


冗談半分、事実半分。
ふざけたように仕事用の笑顔とウインクを明良っちへ向けると、またも呆れた顔をした彼女は溜息を吐いた。


「ほんっとモテるよね」

「もしかして明良っちイジメられてる?」

「まさか」


今日は自分だけお弁当じゃないから、と他の友人達と別行動だと言った彼女に素っ気ない返事を返せば、真逆にもフワリとした笑顔を向けられた。全く減っていないチャーハンが乗った皿の傍で頬杖を突き、三日月に細めた目で俺を見る明良っちにどうしてか身体が熱くなる。呆けていたのか、彼女はすぐに首を傾げ、「どうしたの」とそこから笑みを隠した。


「俺、明良っちの笑ってる顔ちょー好きかも」


なんの気なしにそう口にすると目の前の彼女は顔を真っ赤にして、またもジトリと俺を睨む。次にその小さな口から出てくる言葉は"からかってるの"かな、なんて頭の隅で予想を立てていたけれど、俺のそれは大幅にハズレていたようだ。


「私だって黄瀬の笑ってる顔のが好き」


ざわついた食堂では聞き取れるかどうかギリギリの小さな声だったが、彼女は確かにそう言った。


「……うわ、」


照れた顔なんて初めて見た。

胸が大きく音を立てて、身体がどんどん熱くなってくる。


なんだこれ、めちゃくちゃ可愛いじゃん。



「な、なに、」

「明良っちってさ、もしかして素直じゃない?」


ぐっと口を結んでしまった彼女は俺から目を逸らして慌ててチャーハンを口へ運び、陽の光を遮るように空いている左手で顔を隠してしまった。その仕草も可愛いと思ってしまう。

だけど、隠さないで欲しい。


「ね、明良っち、俺聞いてんじゃん」


その手を取って軽く引き寄せると、未だに顔を真っ赤にしたままの彼女の泣きそうな目に俺が映る。そんな表情にも胸の奥で何かが音を立てて、確信を得たような気がした。


「素直じゃないね〜」

「う、うるさい」


ムスッとした顔をして俺を睨んでくるけれど、笑顔を向けるとまた柔らかく笑ってくれる。


「ねえ明良っち、」



彼女の笑顔をもっと見たい、彼女の笑顔の傍に居たい。



「席離れちゃったけど、授業中以外は俺の隣にいてよ」





(お絵かきしりとりするの?)

(居てくれるならそれでもいいよ)







END
(プリーズ ブラウザバック)



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