黒子のバスケ short

□魘される間もなく、
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「あ、」


転がってきたボールを拾うことも出来ず、ふらつく足が壁に肩をぶつけてしまう。


「真滝さん?」

「あ、黒子くん、ごめん、はいボール」


今朝は目覚ましの音が頭に響きいつもより不快感を覚えて目が覚めた。悪寒に頭痛、時間を見るために寝返りをうつと、関節まで痛むことから熱を計ってみれば39.4℃となかなかの高熱に痛む頭を抱えざるを得なかった。異変に気が付いた母親は「休みなさい」としか言わず、朝食もスープだけを無理やり流し込んで風邪薬を服用し、視界もはっきりしないまま登校した。

今日は絶対に休むわけにはいかなかった。


「ねね、明良、誰のケーキが一番美味しいか選んで貰おうよ」


ボーッとしていた頭がさつきの声に反応して覚醒する。
同学年、つまり二年生のマネージャーが各々ケーキを作り、バスケ部の一軍でだけでも主将の誕生日を祝おうと以前から計画していた。この熱は昨晩夜更かしをし過ぎたせいか、それとも赤司くんのことを考えるだけで身体が熱くなるという習性のせいで薄着で寝てしまったせいか、どちらにしろ体調管理を怠った自己責任であるために私がワンホールのケーキを持ち込まなかっただけで一人分がさらに小さくなることは避けたかった。


「ん、いいよ、でも私自信あるからね」

「明良のその目本気じゃん!やっぱり赤司くんのこととなると違うね」


それはもちろん本気で作った。赤司くんのためだと思えば眠い目を擦ってでも美味しいものを作ろうと頑張れた。だって大好きな赤司くんのため、密かに想いを寄せている(さつきにはいつのまにかバレてしまったけれど)彼に喜んで貰いたい一心で作ったのだから、私のが一番美味しいに決まっている。
練習が終わったら計画はスタートだ。コーチにも監督にも先に話は通しているし、少しだけ早めに終わるという申し訳なくなるような手配までしてくれている。せかせかと片付けるマネージャー陣を不思議そうに見る赤司くんは、どことなく可愛かった。

練習も終盤、備品等の片付けを普段よりも早めに終わらせたメンバーで冷蔵庫に入れていたケーキを取りに行けば、グラリと回る視界と頭が立っていることさえ許してくれなかった。


「ごめん、私の分も持ってって」

「え、どしたの明良」

「ちょっと休んでから行く。ちゃんと誰のが一番か聞いててね」


わかってる!と元気に返してくれたさつきやみっちゃん達を横目に、部室へ戻れば電気を点けることも忘れてバタリとベンチへ倒れてしまう。寒いし頭は回らないし息をするのも辛い、目を開けておくことも億劫で瞼を下ろせば、意識を手放すのに然程時間はかからなかった。


「……明良…」


ズキズキする頭が、誰かが呼んでいると認識して目を開けさせた。どれだけ眠っていたのだろう。身体は倒れる前より楽になっている気がする。開けた目の先には月の光に照らされたオッドアイが煌いて、その中に私を映し込んでいた。


「あれ……赤司、くん……?」

「様子がおかしいと思っていたけど熱があるな、テツヤも気にしていた」


頬に添えられた赤司くんの手が冷たくて気持ち良い。熱で正常に働いてくれない脳が私を緊張させないことを有難いと思えた。


「いま、何時?」

「練習が終わって30分も経っていない。皆はまだ騒いでいる」

「え、赤司くんの誕生日お祝いしてるのに、主役がいないと……」


フワリと笑みをこぼした彼はいつもの鋭い目をしていなかった。どことなく優しいその目は吸い込まれそうなほど綺麗で、私はついつい見惚れてしまう。


「お前は祝ってくれないのか?」

「……え?」

「明良に祝って貰えないと、僕は心から喜べないな」


頬から頭へと移動した手が、ゆっくりと髪を梳かすように動く。その優しい手つきにうっとりしている間に、彼はそっと私の頬へ口付けた。


「あか、し、く……」

「風邪なら僕へ感染(うつ)してくれたらいい……明良が辛いと、僕も辛いよ」

熱で麻痺しているというのにキスをされた部分だけさらに熱く感じる。だけどどうしてだろう、一気に緊張し始めたというのに、心地よくて仕方が無い。


「車を呼んだ。送ろう」

「え、そんな、」

「口ごたえはするな、僕が言うことは絶対だ」


棘のある言葉とは真逆にも彼の表情は終始柔らかいもので、私の声を遮って出てきたそれがドクンと心臓を跳ねさせる。


「赤司くん」


背中を支えて上半身を起こしてくれる彼に声をかければ、「ん?」と伏せていた目が私を捉える。月明かりが、またもオッドアイを煌かせた。


「誕生日おめでとう」


唇に口付けられたのも束の間、ギュッと力強く抱き締められては赤い髪が私の頬を掠める。本当に風邪が感染ってしまうかもしれない。だけど、耳元で聞こえた「ありがとう」という言葉に、そんなことも考えていられないくらい煩く胸が鳴っていた。


「好きだ、明良」


身体が熱くて堪らないのは、熱のせいだけではない気がする。
赤司くんと触れている部分全てが、燃えるように熱くなっているのは気のせいではないはずだ。

今日はもう、眠れないかもしれない。





(ケーキ、食べてくれた?)

(明良が作ってくれたものだけね)





END




HappyBirthday!
赤司征十郎生誕祭2015





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