黒子のバスケ short

□notちびっ子!
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注:笠松弟勝手に小学校低学年設定


「ねえ幸男、この子が早川くんだっけ」

「ちげーよそいつは中村、何回言ったら覚えんだ」

「……そうだった、眼鏡くんは中村くんだったね」


先日行われた練習試合の写真をプリントアウトしていつものように幸男の部屋で広げる。
ベッドに横になりながら月バスを読みふける彼に写真の中の人物を指さしながら問えば、鬱陶しそうにしながらも覗き込んで答えてくれた。


「明良お前、聞いといて覚える気ねーだろ」

「覚えたよー、2人は」

「中村とあと誰だよ」

「キセリョ」


溜息をつく彼にムッとして目を向ければ、「それ知らなかったら海常の女子じゃねーよ」と呆れながら吐き捨てられた。
黄瀬涼太については覚えたも何も確かに知っていたけれど、バスケ部の三年生以外は正直覚えようと思っていない。
私が練習を見に行く目的はいつだって幸男なのだから。


「そういえば隣で見てた2人組の女の子、黄瀬くんじゃなくて幸男ファンぽかったよ?」

「……あ?」

「え、あ?ってそこ凄むとこじゃなくない?」


女子が苦手な彼にとってファンなんていらないのかもしれないけれど、集合写真の女子すら直視できないというのに私を部屋まで入れてくれることに少しだけ悲しくなる。
あのモデルを知らなければ海常の女子じゃないなんて言っておきながら目の前で大層寛ぐこの男は私を女子として意識してないことが悔しくて仕方ない。
起き上がりベッドの上で胡座をかいた彼に背を向けて写真へと視線を戻し、「教えてあげただけじゃんなんで怒るの」と不貞腐れながら呟けばパコンと頭を叩かれた。
振り向いた先の幸男の手にある丸められた月バスがまたも振り上げられたのが見えて、もう一発くるのかと目をつぶればそれがベシャリと顔に押し付けられた。


「えーっと幸男くん、今月の表紙だれ?あたし今ちゅーしてない?」

「どっかのミニバスのちびっ子だ、お前にならそれくらいで十分だろ」


カッチーン、と効果音が付きそうなほど頭にきた私は、顔に押し付けられたそれを引き剥がして幸男へ両手で押し返す。


「叩かれた意味もその発言の意味も全くもって不明です。もうちびっ子と遊んで来る」


テーブルの上に散乱した写真をそのままに、わざとらしく鼻をならして部屋を出た。
後ろから小声で「やっぱちびっ子好きだろーが」なんて聞こえたがここはもう無視に限る。
だってムカついたんだもの知るか幸男なんか主将だからって調子に乗るな。

末っ子が出迎えてくれたから家のどこかで遊んでいるはずだ、と通い慣れた家の中を徘徊する。
リビングのソファーでテレビを見ながらアイスを食べる少年を見つけ名前を呼びながら抱き締めれば、きょとんとした表情とつぶらな瞳が私を捉えた。
可愛い、幸男にそっくり。


「明良まだいたの?」

「……うんまだいたの」


ここは謝るべきなのだろうか。
というより待て、この愛らしい少年はいつから私を呼び捨てするようになったのだろう。
一ヶ月前に会った時はまだ「明良姉ちゃん!」なんて言いながら飛びついて来ていたというのに、成長が早いというより誰かに刷り込まれたような気がしてならない。


「幸男か」

「兄ちゃん?」

「ううん、なんでもない」


アイスを食べ終えたところで「一緒に遊んで」と頼めば、「兄ちゃんは?」とまたもつぶらな瞳を私へ向ける。
その"兄ちゃん"にムカついたからあんたのところにいるのだとは言えないため「部屋にいるよ」とだけ返した。


「兄ちゃんと遊ばねーの?」

「兄ちゃんはもう良いの意味わかんないから」

「なにが?なんで?」

「さあなんでだろう嫌いなのかな私のこと」


自虐発言をこんな少年にするものではないと思いながらも口から勝手に出てしまったから仕方がない。
今のは忘れて欲しいと思いながら頭を両手でワシャワシャ撫でれば、鬱陶しそうに顔を歪めた。
数分前に見た幸男とそっくりだ。
デジャヴかと思いながら手を止めればジトリと睨まれて怯んでしまう。
ああもう幸男に睨まれてる気分。


「兄ちゃん明良のこと嫌いじゃないよ」

「……へ?」


間抜けな声を出した私は今そのまま間抜けな顔をしているに違いない。
ツンとそっぽを向いた少年は至極不機嫌そうな声音で話始めた。


「だって今日バスケ休みなら遊ぼうって言ったのに明良来るからダメって言われたしココで寝てる時も『明良、明良』って寝言ばっかりだし最近やたら『明良好きか?』とか聞いてくるし……明良に兄ちゃん取られた」

「……なっ……!」


息継ぎもなしの饒舌だった目の前の少年の何かを察しているような目が私を射抜く。
「どうせ明良も兄ちゃんのこと好きなんでしょ」と下から睨み付けられながら言われたが、可愛いとか怖いとかそういう感情よりも今時の小学生の観察眼と分析力に舌を巻いてしまった。
というより弟にバレているということは私の気持ちも既に彼にバレてしまっているのかもしれない、と思うともうこの家をすぐに出ないといけない気がする。
ガバリと勢いよく立ち上がったはいいものの荷物は幸男の部屋だしそこで普通にしていられる自信もない。
それに"明良に兄ちゃん取られた"なんて、自惚れても良いのだろうか。
だけど彼の部屋を出る前に顔面に押し付けられた月バスのちびっ子ちゅーに対しての発言は完全に私を"女"として意識していないものだったし、寝言で私の名前を言っているのなんてただ私の夢を見ていただけでそれが私にとって良い夢とは言いきれない。
弟に私のことが好きかどうか問うたのですら良い意味とは限らないのだ。
今日来ることは確かに昨日の夜の電話で言っていたことだけど結局部屋を出てから追いかけても来ないのだからただゆっくりしたかっただけの弟への言い訳かもしれない。


「確認してくる」

「兄ちゃんに?」

「うんそう兄ちゃんに」

「好き?って聞くの?」

「いやそれはムリ」


もはや小学生相手にガチの恋愛相談でもした気分の私はガツガツと階段を登って勢いよく幸男の部屋の扉を開いた。






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