黒子のバスケ short

□マイペースデート
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〈 明日空いてるか? 〉


大輝からのメールが来たのはお風呂から上がってすぐのことだ。
付き合い始めて半年、デートなんてしたこともなかったが学校で顔を合わせるだけで結構満足、とお互い思っていると思う。
たまにウチへ来てご飯を食べて帰ったりするから寂しいなんて思ったこともないし、部活にも顔を出しているようだから長い時間一緒にいることは無いけどそれでも私は今幸せ、だと思う。
恋なんてしたこともなかったから大輝への気持ちがそれなのかはわからないが、それでも好きだなと思うこともあるし一緒に居たいとも思う。
だから私の中ではそれを恋と定義付けていて、付き合っていることに不思議だとも感じたことはない。


〈 空いてる。どうしたの? 〉


翌日の予定を聞かれたのは始めてだ。
いや、翌日に限らず今まで予定を聞かれたことが無かったから実は少しばかり驚いた。


〈 どっか行きたい 〉

〈 これデートのお誘い?下手くそすぎでしょ 〉

〈 うるさい。行きたいとこあるか? 〉

〈 ない 〉

〈 可愛くねーな 〉

〈 大輝が行きたいとこ行きたい 〉


そこで順調に進んでいたやり取りが止まったのは言うまでもない。
考えてくれているのだろうか、それとも少しだけ可愛いことを言ってみたから驚いているのだろうか。
どちらにしろ今彼の頭の中は私で一杯になっていると思うと気分が良い。
やっぱり私は彼に恋をしているようだ。


〈 文句言うなよ 〉


暫くすると返信があり、このメールを作っている彼の顔が容易に想像出来た。
携帯を投げてしまったかもしれない、だけどまあ私のでは無いから全然良い。
一度部活を見に行ったことがあるが部室から出てきた彼の美少女幼馴染が手にしていた雑誌をゴミ箱に投げつけているのを見たことがある。
堀北マイちゃんが好きなことは私だって知ってたから隠すことないと思うのに、あの錆色の顔が面白くて私はただただ眺めることに没頭した。
さつきちゃんを叱る姿は傑作だった。
もう本当に何年も掃除していないキッチンのシンクみたいな色をしていたから。
ああ、でもこんなこと考えるのも失礼だ、一応彼氏だった。


〈 言わないよ。楽しみ 〉

〈 14時に○○公園 〉

〈 はい 〉


淡白なメールだと思われるかもしれないがこれが私と大輝のいつもの会話と変わらない。
ただたまに"ダルい"とか"めんどー"とか"帰りたい"などが入るが至って平凡な高校生活を送っている。
一ヶ月は続くと思っていたあの"いじめ"も次の日には新しい人に変わっていて私はあの強姦未遂のみで他には何もされなかった。
ちなみに新しい人はあの首謀者だった。
それも他が飽きたのか一週間で終了となり今では大人しくなったバカ女達は学校にも来たり来なかったり。
来るのが気まずいのか来た時には前とは比べ物にならないほど小さくなっている。
私を襲おうとした男達の前では特に。
そしてその男達は大輝の前で小さくなっているのだけれど、あの時の写真を彼に見せてもらったときは笑ってしまった。
なにせブレにブレたサッカーボールと、ああ誰かがいるな、としかわからないものだったからだ。
消しても良いと思うのに彼はそれを頑なに消去しようとしない。何故だかはわからないが強く言うほどのことでもないと放置している。
明日はその理由を聞いてみても良いかもしれない。
学校以外で会うのはこの家以外で初めてだから、妙に楽しみにしている自分に違和感を持った。
どこへ連れて行ってくれるのだろう、デート前日の女の子の気持ちが少しだけわかった気がする。





「大輝っ」

「っ、よお、……お前そんなん持ってたのか」

「うん、……うん?あったみたい」


出かける前に母にデートと伝えると嘘でしょと言わんばかりの顔をされて「あんた彼氏出来たの?!教えてよ!」とバタバタこのワンピースを引っ張りだしてきた。
「買ってて良かった」なんて言う母はもう泣きそうな顔をしていて着た後には「やっぱり私の娘だわさすが明良」なんて自慢気に父の前に出された。
少しだけ不機嫌になった父の顔は見事にスルーしたが家を出た後に受信したメールを大輝に見せれば盛大に吹き出されてしまった。


「挨拶って……早くね?」

「いや別にイヤなら良いんだよ?」

「……いや行く」


彼がこんなに真剣な顔をしているのは部活の時以外で初めて見た。
私といる時は少なからず眠そうな顔をしているから。


「今日いるけどどうする?」

「今日?!」

「いや別にイヤなら良いんだよ?リピート」

「……いや行く」






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