黒子のバスケ short

□ミスチーバスキャットと誕生日の俺
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例年同様、今年も"おめでとう"という言葉を何十人という生徒から貰い受けた。
わかっていたけど真ちゃんは言ってくれるわけがなくて、宮地先輩に至っては「浮かれてんじゃねーぞ埋めんぞコラ」なんて相変わらずの物騒な物言いだ。
十日前に俺はきちんと祝ったというのに。

そんなことより、だ。

確かに大事なチームメイトのそんな態度も気になるが、一番言って欲しい明良からその言葉をまだ貰っていなかったりする。
宮地先輩にはしっかりプレゼントまで渡していたというのに(手作りのクッキーだったか)同学年で、しかも同じクラスの俺に何も無いとは何事だ。
そりゃもちろん部活の選手とマネージャー、同じクラスで席が隣、というただそれだけの関係だが、俺の中で特別な存在なのは確かだ。
正直なところ誰よりも彼女からの一言が欲しい。
誕生日を忘れているとは思えない。
席までその言葉を言いに来る連中は山程いたし、今のこの練習が始まる直前ですら先輩達に声をかけられた。
それもそのはず、彼女に聞こえるように大声でこの十日間言いふらかしていたのだから。


「明良っちゃーん!」


休憩の度に明良を捕まえては何の日か尋ねるも、彼女はただニコリと微笑むだけで口を開こうとはしなかった。
もうわざとだとしか思えない。
意地でも言わないのなら、意地でも言わせてやる。


「ねぇ明良ちゃん、今日何の日でしょ」

「さぁ?」


部活が終わって部員達が体育館を後にする頃、ゼッケンやらタオルやらを洗濯カゴへ放り込んでいる明良へ話しかけた。
だけどやっと開いた口は何の日だかわかりませんというような口ぶりで、笑顔でまた俺の前から去ろうとする。


「いやっ、もういい加減にしよーぜ!明良ちゃん!」


大声で叫ぶも彼女は軽い足取りで体育館から出ようとするものだから、プチンときた俺の頭は勝手に彼女の背中へと足を動かしていた。


「や、ほんと、頼むぜ明良、……俺お前に言って欲しいの」


肩を掴んで強引に振り向かせれば、未だに笑顔の彼女は悪戯が成功したような目で俺を見上げている。


「なにを言って欲しいの?」

「え、いや、そりゃ、誕生日おめでとう……?」

「ヘー、タカオクンキョウタンジョービダッタンダー」

「ブフォッ、ちょ、冗談でショ!」


いつもは下の名前で呼んでくれるのに"高尾くん"なんて長距離な呼び方に血の気が引いてしまう。
しかも今初めて聞きましたと言わんばかりの驚いた表情を作ってみせている。
そして棒読みときた。


「え、なに?俺明良ちゃんになんかした?」

「ナニモシテナイヨー」


くるりと踵を返してまた歩き始めた彼女の肩をまたも掴み振り向かせる。


「知ってるでしょ!つーか気付くっしょ!」


切羽詰っているようにそう言えば、本当に楽しそうな顔で笑い出した彼女に、一気に肩の力が抜けた気がした。


「うそうそ、ごめんね、ちょっとからかいたくなっただけ」

「……はぁ?」

「ごめんってば、でも面白かった、今日の和成」


なんか物凄く必死だったね、と続ける明良はまるで猫のような目をして俺を見る。
丸い目が細められてペロッと舌を出しているその顔は、酷く妖艶でドキリと心臓が跳ねた気がした。
咄嗟に彼女の手から洗濯カゴを取り上げて床へ放り、手を腰へ回してグッと引き寄せる。


「……なぁ、宮地さんにはプレゼントあって、俺にはねぇの?」


負けじと挑発的な目を向けてそう問えば、彼女もまた同様の目を向けてくる。


「プレゼントは私、とか言ったら……笑う?」

「ぶはっ!笑う!……でも、ちょーサイコ−」


引き寄せあうように唇が触れる。
彼女の下唇を吸い上げればチュッと小さなリップ音が響き、それと同時にゆっくりと離れた。


「俺まだ聞いてねーんだけど」

「私もまだ聞いてないんだけど」

「は?なに?」

「好きって言ってよ」


またも舐めるような目を向けてくる明良の口は弧を描いていて、彼女には一生敵わないかもしれないと悟ってしまう。


「ちょー好き、大好き、明良ちゃん愛してる」

「なんかウソっぽい」

「んなワケねーだろ、ホラ、お前も言えよ」

「誕生日おめでとう」

「ブフォッ!そこは違ェーだろ!」


この猫の悪戯はどうやら成功したようだ。
ケラケラと楽しそうに笑う様子に好きだという気持ちがまたも増幅してしまう。
だからこんな気まぐれに俺は一生付き合う気満々だ。
念願の明良からの"おめでとう"は、彼女というプレゼント付きで、この世に生を受けてから最高のものになった気がする。



(もうヒトツあるっしょ?)

(……好き)






END

Happy Birthday!
高尾和成生誕祭2015



(プリーズ ブラウザバック)



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