実る恋もあれば実らない恋もある、って誰かが言っていたことを思い出した。 そりゃそうだ、モテモテの人ってのは何人もの異性に恋心を抱かれてその中の誰かのことを好きだと言うなら他の人達の恋は散っていく。 そして自分が恋をしている相手が他の人を好きだと言うならそのモテモテの人の恋心までも砕けてしまう。 両想いになれる人達なんてほんの極一部なのだろう。 その中でも別れというものが存在しているのに、永遠の愛を誓う結婚という儀式を行う人達のことを俺は尊敬までしている。 だけど目の前にいる彼女の考えは俺のそれとはかけ離れたものだ。 「結婚なんてものも脆いもの、永遠の愛を誓うなんて言ってもただの口約束でしょう?」 永遠の愛を誓った人達の中にも、別れは存在するじゃない。 冷めたヤツだと思っていたが、つい先日彼女の親友と名乗る女の子から話を聞けば、高校に入学すると同時に彼女の両親は離婚したとのこと。 本当はもっと早くに別れるつもりだったがお前の受験があったから、とそんなことまで暴露されたらしい。 父親の方へ付いてきたのは彼女の母親にもう新しい人がいるからということだった。 俺の話を聞いている時の彼女の心境は、どんなものだったのだろう。 「真滝は結婚しねーの?」 担当教師が休みとなった三時限目、中庭に繋がる廊下の陰は、木々が生い茂っていて上手く姿を隠してくれるからサボるのには絶好の場所だ。 真ちゃんに人事を尽くせだのなんだの言われるかもしれないが、彼女の泣き顔を見てしまった今は教室で大人しくなんてしていられない。 自習なんだ、許してくれるだろう。 「しようとは思わない、でも、お見合いとか、お父さんがこの人としろって言うなら、その人とすると思う」 好きでもない人の方が多分楽だ、と吐き捨てる彼女の目は、未だ腫れたままだ。 自習が始まってすぐに教室を出た彼女を追いかけて、誰かと電話をしている声に聞き耳を立てれば、嗚咽混じりの声が聞こえた。 電話の相手が誰なのか見当もつかないが、声をかけてから振り向いた彼女の顔が頭から離れない。 抱きしめたくなる衝動にかられたが、腕を引いてここまで連れて来るのが精一杯だった。 「高尾はどうしてそんなに結婚に憧れるの?」 膝を抱えた彼女の声は、俯いていながらもはっきりと聞き取ることが出来た。 好きな人と両想いになってずっと一緒にいられることなんて、幸せ以外のなんだというんだ。 だけどずっと一緒にいた家族がバラバラになる経験をした彼女にとって、そんな脆い幸せなら最初から無い方がマシだと考えているのだろう。 わからなくもない。 だけど、その幸せを崩さない自信があるからこそ、俺は結婚に憧れている。 「絶対幸せになる自信があるから」 「そんなのわからないじゃない」 「わかる。俺は何でも見えるから、未来も見える!」 言い放った言葉にキョトンとした表情を見せた彼女は、その後すぐに笑ってくれた。 なに言ってんの、と俺の肩を叩く彼女の腕を取って引き寄せれば、小さく驚愕の声を上げて腕の中へ収まった。 「たか、お、」 「俺さ、お前との未来だったらほんとに見えるんだけど」 だから好きな人と結婚しよーぜ、と続ければ、呆れたような顔をした彼女が俺の胸から離れる。 「……私、高尾のこと好きじゃない」 「ブフォッ、おま、ムードっつーもんを考えろ!」 今の告白?と聞かれたものだから、プロポーズ、と答えればまた笑われてしまった。 確かに付き合ってもいない俺達の間で、両想いでもないとわかっているのに、永遠の愛を誓うための第一歩を踏み出した俺は笑われてもおかしくないのかもしれない。 だけどこれから絶対俺を好きにさせるし、絶対幸せにしてみせる。 泣き顔なんてもう見たくないんだ。 永遠の愛をキミと誓いたいから、両想いになれるようにと手を取った。 (高尾のこと見くびってた) (お、もう惚れちゃった?) END (プリーズ ブラウザバック) |