黒子のバスケ short

□マイペースヒーロー
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家を出て空を仰げば雲一つない青色だけがそこにあって、今日も大事無く平凡に過ごせると思っていたのに。
ある事を除いては。

おはよう、と声をかけて、初めて返事が帰ってこなかった。ああ、ついに私の番だ。


「今度のターゲットはお前か」


へらへら笑いながらやってくる彼が今日は鬱陶しくて仕方が無い。
今朝目にした青空よりも濃い色をした短髪のそれは入学してから少し伸びたみたいだ。


「髪、切ったら?」

「お前そんなこと言ってる場合かよ」


たしかに、そんなことを言ってる場合ではないのかもしれない。

高校生にもなって"いじめ"というものが存在するこのクラスは、入学式当日からそれが始まっていた。
どうやって組み立てたかわからないグループは恐らく中学からのなりあがり的ポジションでリーダーを張る女の子が早くにも頭角を現したらしい。
しかも性質の悪いことにターゲットは一ヶ月と短い期間でチェンジする。
子供だな、と見ているだけだった私も同罪だと思うし、それがいつか自分に回ってくるとわかっていたからこそ今落ち着いていられる。
まだ、何もされていないから。


「お前アレか?不感症か?」

「は?」

「いやだって何も感じてねーんだろ?」


バカなのに無理してそんな言葉使わないで欲しい。
意味がかけ離れ過ぎていてもうツッコミたくもない。


「感度は良い方だと思うけど」


男の人とそういう事をしたことが無い私だけど大輝との会話にはたまに下ネタが入ってくる。
恥ずかしげもなく言い返す私は本当に可愛くない女だ、感度は良い方なんて自慰行為もしたことがないから私自身わかっているわけではない。
ただのノリだ、彼との会話はいつもノリ。
そんなサバサバしたところが話し易いと暇なときにはいつも私の席までやって来る。
屋上でサボろうと言われれば断るから、どうやら私のお蔭で前より教室に居るようになったらしい。
彼の幼馴染である美少女談だが。
そんないつもの会話をしているはずなのに目の前にいる彼の顔がほんのり赤く見えるのは気のせいだろうか。
元々色黒だからもうなんというか、褐色。錆が付いてるみたい。
そんなことを考えていたら自分が今いじめのターゲットになっていることなんてすっかり忘れて笑ってしまっていた。


「お前イマ俺の顔見て笑ったろ」

「いやだって、なんか変な色してる」

「色黒バカにすんのも大概にしろ!」


べつに色黒をバカにしたわけでは無いというのにそこまで怒ることだろうか。
フンッと鼻を鳴らして教室から出て行った彼は恐らくまた屋上に向かうのだろう。
昼休みに一度だけ一緒に昼寝をさせてもらったけど、塔屋の上があんなに気持ちの良い場所だなんて思わなかった。
また、誘ってくれないだろうか。


「良いこと聞いちゃった〜」


大きめの声が教室内に響く。
あのグループが私の方を見て笑っているということは何かを企み終えたらしい。
さて、一体何をされるのだろう。
前回の女の子はトイレに入っているときにホースで水をかぶせられていたっけか、私は熱くなってそれを止めに入るような人間でもないから後からジャージを貸しただけ。
その前の子はロッカーの私物が折られた油性ペンでぐちゃぐちゃにされていた、あとタバコやらコンドームやらを机の上に大量に置かれていたり。
やられることは大したことではない。
やり過ごせばまたターゲットは変わるだろう。
私で終わりにしてよ、なんて言うほど素晴らしい人間ではない。


「真滝明良、放課後体育倉庫来て、西の」


最後の授業が終わる直前、いつもは甲高い声で笑っているくせに妙に低く言葉を発してきたのは"いじめ"の首謀者であるバカ女。
西の体育倉庫なんてもう何年も使ってないと聞いたことがある。
鍵を既にせしめているのだろうか。
グラウンドから少し離れたところにあるそこは中々人目にもつかないから今回は暴力か。
見えるところに傷はつけないようにした方が良いとアドバイスをするつもりもないが、親や教師達に根掘り葉掘り聞かれるのも面倒臭い。
行かなければ良いのだろうがあんな目をして言われて行かないなど負けた気がする。
これでも結構負けず嫌いだ。
成績であんなバカ女達に負けたくなんてないから大輝とサボるのも拒否している。
本当だったら、私だってサボって寝ていたい。





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