黒子のバスケ short

□やっと言えるあの言葉
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いつからかアイドルを追いかけ始めた彼はバスケットボールと他の女の子には興味が無いということに安堵していた自分がいる。
幼馴染として支えようなんて痴がましいと思ってマネージャーの声を断った。
だけど最近彼の隣にいるあの女の子は一体何者なんだろう。
たまに教室へ来ては二人でどこかへ消えて行く様子を目にしてズキリと胸が痛んでいた。


「おめでとー飴ちゃんあげるー」


ふざけた様に変に声を高くした男子生徒が清志の席を囲む。


「気持ちワリィ、埋めんぞコラ」


暴言を吐きながらも笑っている彼は今日誕生日だ。
机のサイドホックにはビニール袋がたくさん提げられていて、透けて見える中身はプッキーやポリッツなんて長い棒系のお菓子が見える。
他クラスの女の子達や後輩が手渡しているのを朝から何度も目にした。


「相変わらずおモテになることで、腹立つなお前、分けろよソレ」

「ああ、食っていいぜ、みゆみゆ以外興味ねーよ」


出たよアイドルー!と笑う彼等同様、清志のアイドルオタクは周知の事実だからこそ私も安堵していたというのに。


「清志センパーイ」


甘い声で彼を呼ぶのは言葉の限り後輩なのだろう。
明るめの茶色い髪を毛先だけ緩く巻いた彼女は彼の何なのだろうか。
推しメンと程遠いルックスだからこそ彼の好きなタイプではないと思いたいが、この昼休みにお弁当をかっ提げて来たということはお昼を一緒に摂るつもりか。


「お、マユちゃん来てんぞ、お前等ほんとに付き合ってねーの?」

「そんなんじゃねーって、俺今日食堂行かねーから」


そう言って立ち上がった彼と一瞬目が合ったのは気のせいではない。
即座に眉間に皺が寄ったように見えたのも、恐らく気のせいではないはずだ。
腕を組もうとする後輩の女の子の手を優しく払いのけているのが見えて、一緒に昼食を摂っている友達の話など全く耳に入ってことないというのに彼の席を囲んでいた男子生徒達の会話だけは嫌でも耳に入ってきた。


「マユちゃんカワイー」

「付き合ってもねーのにほぼ毎日昼飯一緒に食うってどうなの」

「宮地もよくやるよなー」

「付き合ってやりゃーいいのに」

「好きな子はいるみたいだぜ?もちろんアイドルじゃなくて」


サッと耳にフィルターがかかったように一瞬で周りの音を遮断したような感じがする。
彼に好きな子がいるだなんて知らなかった。
それはもちろん全くと言っていいほど話さなくなったことが原因なのだが。
中学生活終わり頃に私に彼氏が出来てからの彼との距離が著しく離れた気がする。
他校生だったその時の彼氏とは案の定長くは続かなくて、むしろ好きでもない人と付き合った私がいけなかったんだろうけど。
いい加減に彼のことを諦めたくて自棄になっていたのかもしれない。
それと、周りのいけいけムード。
人のせいになんてしたくはないけど、お互いの友達が見ている中で告白なんてされたら断ろうにも断れなくなってしまうではないか。
そこまで空気が読めない人間ではないと自負しているからこその交際承諾の答えだった。
両親の勧めでここに入学したから、決して清志と一緒にいたいからという理由などではない。
久しぶりの会話はマネージャーに誘われた時で、荒い口調でもはや命令形にイラッとしたことと、彼とそんなに時間を共にすれば好きという気持ちを抑えられなくなってしまうと思ったから。
だけど、関係を崩したくなくて気持ちを抑えようと思っていたというのに、こんなに距離が出来るなんて思いもしなかった。
小学校、中学校とレギュラーになったと嬉しそうに報告しに来ていた清志を思い出すが、人一倍努力する彼がレギュラーにならないはずがないと意味不明に鼻を高くしていたのは自分だった。
それをここでは噂で耳にしたことに悲しくなった。
なんでも一番に報告しに来てくれていた彼のことを、今じゃ私が一番知らない。
昼休みを終えるチャイムが響くと同時に教室へ戻って来た清志の顔はどことなく不機嫌そうに見えて、片腕には先程一緒に消えて行った女の子が持っていた紙袋を提げている。
誕生日プレゼントだと考えなくてもわかった。
渡すことなんて出来ないと思いながらも去年同様密かに用意している私のバッグの中にもそれがある。
もしかしたら、なんて期待があるわけではない。
ただもう癖のようになってしまっていて、十月に入ればこの日の為にお金を貯めてしまう。
渡すことなんて出来ないのに、自分は何をしているのだろう。





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