その水晶の様に透き通った水色の瞳に見つめられるだけで、私の心は何もかも見透かされているような錯覚に陥ってしまう。 幼い頃からあなたに教えてもらったバスケットボールは、あなたの次に私の大切なものになりました。 あなたになら、私は殺されてしまっても構わない。 「明良さん、どうしたんですか?」 「ぅえ?!ああ、ううん、何でもない、何の話だっけ」 彼はもう気付いているのだろうか。 私の気持ちに。 「欲しい物はありますか?レギュラー昇格のお祝いです」 いつも無表情の彼がそうやって微笑んでくれるのは、私が漸く所属するバスケットボール部でレギュラーの座を掴んだから。 シゲちゃんと約束している彼は未だに強豪校である帝光中学校で手を拱いているけれど、いずれユニフォームを手にすると信じている。 「えー、いーよそんな」 断ってみるものの彼の目はジッと私を見つめていて、私がそれに弱いことを知っていてその目から開放してくれることなんて有り得ない。 じゃあ何か奢ってよ、と渋々言葉を繋げれば、呆れたように溜息をこぼしてマジバへと入って行く。 私も彼も大好きなバニラシェイク。 彼らしくて、小さく笑ってしまう。 軽快な音色と共に出て来た彼は、両手にそのお気に入りを持って私の前で立ち止まった。 「バニラシェイクで良かったですよね」 「うん、さすが、ありがと」 受け取ってズズズと吸い込むと、口一杯に濃厚なバニラの風味が広がる。 いつもより美味しい。 彼と並んでいるからだろうか。 「本当にこれだけでいいんですか?」 「うん!嬉しい!すっごく!」 久しぶりに会えただけで満足だというのに、彼からの祝福の言葉と一緒に大好きなバニラシェイクまで口に出来るなんて最高だ。 勝手に頬が緩んでしまう。 「荻原くんも元気そうですね、相変わらずですか?」 「うん!もう毎日喧嘩してる!この前なんて私が先にレギュラーになったからって6時間もストバス付き合わされた!死ぬかと思った!」 部活終わった後だよ?!と付け足せば、クスクス笑う彼の横顔に見惚れてしまった。 どうしてこんなに綺麗に笑うんだろう。 反則だよ、まったく。 「本当に相変わらずですね」 気になってはいたがやはり前より少し声が低くなっている。 空を仰いだ彼の喉には男の人だと認識せざるを得なくなるようにぷっくりと膨らみが見えた。 それを見て、意識するだけで、ドキドキしてしまう。 キュンと苦しくなる胸の鼓動と、熱を帯びる私の顔に、彼は本当に気付いていないのだろうか。 「でもそれじゃあ帰ったのは夜中ですよね、ちゃんと送ってもらいましたか」 「え、う、うん!帰る方向同じだし、送ってって!って行ったらなんだかんだ、ね」 突然顔を覗きこまれて声が裏返る。 だけど必死に元に戻せば危なげながらも噛まずに言葉を口にすることが出来た。 どうしても彼の行動は心臓に悪い。 だけど言い終えた直後の顔が少しだけ憂いを帯びていて、そうですか、と小さく呟かれた声を不思議に思う。 彼にこんな顔をさせるなんて、私は何か変なことを口にしてしまったのだろうか。 「ボクも明良さんを送り届けたいですが、……遠すぎますね」 「え、えっ、いいよ!テツヤ君はそのまま帰って」 「……荻原くんの方がいいですか?」 「………え?」 暗くなった道にポツンと光る街頭の明かりの下で足を止めれば、またもジッと見つめられてしまってその目から逃れることが出来ない。 毎日喧嘩ばかりする幼馴染の方が良いかなんて、どうして彼はそんなことを聞くのだろう。 澄んだ瞳がユラリと揺れた気がして我に返った。 「ボク、明良さんのことがずっと好きだったんです」 今度こそ頭が停止してしまった。 もう視線は捕えられていないというのに、空を見上げる彼の横顔から目を離せない。 強い風がスカートを靡かせても、捲られているなんて感覚さえ無かった。 「テツヤ、くん……」 「でもやっぱり荻原くんに適いそうもないですね」 眉尻を下げて笑う彼はやはり綺麗な顔をしていて、一瞬見惚れてしまって歩き出したのに気が付かなかった。 帰りましょう、と言われて駅の方へ足を進める彼の背中に、目一杯の声で叫んだ。 「私は!シゲちゃんじゃなくて、テツヤ君が好きなの!」 ゆっくりと振り返った彼の顔を見ることが出来なくて、俯いたまま震える拳に力を込める。 あんなに見つめておいて、私の心を見透かすような目で見てくるくせに、誤解しているなんてあんまりだ。 「明良さん、」 「わかってると思ってたのに……」 無意識に口をついた言葉にハッと我に返り、しまったと思ったときには彼の腕の中に閉じ込められていた。 「……言ってくれないと、……わかりませんよ」 水色のさらさらの髪が頬を掠める。 彼に抱き締められているとわかった時には私もギュッと背中へ手を回していた。 「……シゲちゃんじゃない、テツヤ君がずっと好きなんだもん、……だから、誤解とかしないで……」 撫ぜられる頭が心地良い。 割れ物を扱うようなその手つきがざわついた気持ちも落ち着かせてくれているようだ。 見透かされていると思っていたのは私の勝手な妄想に過ぎなくて、だけど今ここで彼に殺されようとも悔いは無いなんて生意気なことを考えてしまう。 「帰りましょう」 もう遅いので、と引いてくれる手は指が絡められている。 ああ、もう、バスケが無くても彼さえ居てくれたらいいかもしれない。 (荻原くんにちゃんとメールしておきます) (なんて?) (ボクの許可無しにストバス6時間はさせません) END (プリーズ ブラウザバック) |