黒子のバスケ short

□やっぱおは朝信じるわ
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「真滝は好きな奴とかいんの?」


唐突な質問に私はギクリと身体を強張らせた。いや、話の流れから唐突なんてことはなかったのかもしれない。ただ私が驚いただけのことで、至極自然な問いに違いないのだ。


「い、いるよ」

「ふーん」


興味が無いなら聞かないで、と返せば、彼はクシャリと笑顔を作る。人懐っこいそれに惹かれた私は、いつの間にか彼のことばかり考えるようになっていた。
試験期間に入った今日から部活も強制休日となり、初めて高尾と帰る時間が重なった。ほぼ毎日自分目的で私が体育館を覗いていることなど彼は思いもしないだろう。そんなのも、私が休憩中の時だけなのだが。
今日の数学は意味不明だったとか、日替わりのAランチが微妙だったとか、そんな他愛もない話から、同じクラスの誰かが告白されてた、なんて話になって今に至る。
恋バナというものを男の子としたのは初めてのことで、ましてやその初体験を好きな人とすることになるとは思いもしなかった。彼からの質問に便乗して「高尾は?」と聞けばよかったというのに小心者の私は彼に想い人がいるだけで立ち直れないかもしれないと考えて口を開くことが出来なかった。
フワリと生暖かい風が二人の間を吹き抜けた気がして湿った空気に気がついた。雨でも降るのだろうかと空を見上げれば、ポツリ、と顔に雫が落ちる。あ、と声を出した時には隣を歩く彼も気が付いたようで、量を増すそれに顔を歪めた。


「わーー降ってきた」

「うわー俺今日おは朝占い二位だったってのに」


当たんねーじゃん、と軽く舌打ちをする彼と走る。私は一位だったというのに、高尾と帰れると心の中ではしゃいでいた数分前の自分が信じられない。
シャッターの閉まったブティックの前で足を止め、とりあえず、という彼の顔を見て私も軒下へ入った。天気予報でもお姉さんが言っていたこととは真逆で、雨足は強くなるばかりで止む気配など毛頭ない。どこが一日中日差しが強いんだ。空は真っ暗じゃないか。
濡れた顔や腕にハンカチを滑らせ水気を取る。ふと彼へ目を向けると、髪から滴り落ちる水滴が制服を透けさせ、顔に張り付いた前髪を掻き上げる仕草があまりにも妖艶で無意識に見惚れてしまった。


「ん?なに、」


目が合ってしまいまたも身体を強張らせた私とは対照的に彼は言葉途中に素早い動きで自分のバッグを漁りだした。ズリっと引き出したタオルを私へ差し出したと思えば、彼は顔を背けたまま何も言わない。もう拭いたよ、とそれを突き返せば、彼はさらに強く突きつける。


「高尾まだ拭いてないじゃん」

「いや、お前透けてっから、俺ちょー見ちゃうから」


そのままでいいならそれはそれで有り難いけど、と付け足した彼の言葉の意味は意外にも私はすぐに理解が出来た。肌に張り付いた制服は半透明と化し私の下着をいとも簡単に主張している。今日に限って真っ黒のそれは上から見ても胸の形を浮き彫らせていて、ガバリと両腕で覆うが彼の様子を見ればその行為は既に遅いことだと悟った。







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