黒子のバスケ short

□聞かなきゃよかった
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恋する乙女という存在が私には理解出来なくて自分も性別的には女だというのに程遠いものに感じる。
友達がオトコノコの話を振ってくるのが嫌いだった。
何部の誰が格好いいだの何組の誰かが昨日告白しただの。
小学生の頃から高校生の今になっても続くそんな浮ついた話題に溜息をつく。
だけどそれは私がまだ恋というものがわからなくて単に付いていけていないだけだ。
心の成長が遅れている、と言われればそうなのかもしれないが、辞書を引いてみてもあやふやな説明で実に不鮮明なものとしか脳にインプットされなかった。
友達に聞いてみても「ずっと見てたいしずっと触れてたい」とか「胸がキュッて締め付けられるんだけどフワフワ凄く気持ちいいかんじ」だとか。もう全然意味がわからない。

だから一番頭がいい彼に聞いてみたくなったのだ。
彼なら何でも知っていそうで、運良く私の後ろの席。
席替えをしてからよく話すようになった彼は今まで周りから聞いていた人物像とはかけ離れているというより真逆だった。
誰だろう、話しかけづらいなんて言い出した人は。
私と彼しかいない教室にパタリと日誌を閉じる音が響いた。


「ねえ、赤司くん」


生徒会の資料なのか細かい字が並べられたプリントから目を離し、顔を上げた彼はその綺麗なオッドアイの中に私を映す。
真剣に読んでいたところに間抜けな質問なんてしたら睨まれるかなと思ったが、ここで何でもないと切り離す方が失礼なはずだ。
高校生とは思えない落ち着いた風貌の彼なら私にも理解出来るような答えをくれるかもしれない。


「恋ってなに?」


唐突だと自覚しているこの質問に彼は全く表情を変えずにいつもの微笑みを私へと向けている。
これは知っている顔だと認識した私は友達から貰ったような答えだけは返して欲しくなくて気持ちだけ身構えたのが表へ出てしまったのかもしれない。
フッと笑った彼は机上にあるプリントを裏返し真っ白なそれにシャーペンを軽く走らせる。
追いかけるように私も目を向ければそこには赤司くんと私の名前が書かれていた。
綺麗な字、なんて心の中で褒めていたが言葉では私が理解出来ないと察して図で説明してくれるのだと判り、馬鹿にされているようで少し悔しくなった。有難いけど。


「明良は人を好きになったことがないのか?」


やっと開いた彼の口からは私からの質問の答えではなく、私への質問。
首を傾げて斜め上を見ながら考えていると、またクスクスと笑う声が聞こえた。
家族とか言うのはなしだぞ、と言われて睨むように目を向ければ彼の目は自身の動く手の先へと向けられている。
また何か書いているのだろうかと視線を移すと彼の名前から私の名前へ矢印が一本引いてあり、その下にいくつもの文が箇条書きで書かれていた。
読んでみろと目で訴えられ徐にそれを手に取る。


「明良の目が好き、明良の口が好き、明良の声が好き、明良の……」


首が好き、明良の背中が好き、明良の手が好き、明良の香りが好き、明良の全部が好き。

声に出して読んでいたものの途中から書かれていることに恥ずかしさを覚えて口を閉じた。
目で読み終えた頃には顔の血液が沸騰しているのではないかと思うほど熱くなっているのがわかる。


「なに、これ」


赤くなっているであろう顔をプリントで隠して目だけ上から覗かせる。
彼はまたクスクス笑って私からその防御壁を奪い取った。


「質問の答えだぞ、変に説明するより解り易かっただろう?」


あ、あと、と彼はまた手を動かす。
何かを書き付け足してそれをペロリと私の前へ突き出した。

"明良の全部が欲しい"


「明良の全部をボクだけのものにしたい、明良を独占したい、こういう気持ちを恋だというんじゃないかな」


不適に笑う彼はプリントの奥から私を覗き込むようにして静かに言葉を発する。
その目を見てドクンと胸の奥が脈打つのと同時に、僅かに冷静を保とうとする私の脳は高速で回り出した。


「説明するために私と、赤司くんの名前、使った、の?」

「いいや、ボクの気持ちをそのまま書き記してみただけだ、……簡単に言ってしまえば、ボクは明良に恋をしている」


口角をさらに吊り上げた彼がプリント越しに見えてまた胸の奥が熱くなった。
もっと深く説明しようか、と彼が手を下ろそうとするのを必死に止めてその防御壁へと隠れる。


「も、もうわかった、かも、」

「そう、よかった」


本当は解ってなんていないんだけど、恥ずかしくて止めざるを得ない。
チラリと彼の顔を覗き見れば、それをも見透かしているように笑っていた。





(これからボクと居れば嫌でももっと解るだろ)

(も、もうわかったってば……!)







END
(プリーズ ブラウザバック)



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