黒子のバスケ short

□だれのって、
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休日の午後に予定も無いのに外へ出て、目的も無しにぶらりとコンビニへ立ち寄った。
特に買いたい物があるわけでもない。
ただ少しだけ涼みたくて、というところだと思う。
自分でもはっきりわからない。
ズラリと並んだ漫画と雑誌の前を通ると、毎日目にしていた彼の姿があった。
こちらを睨むように今時の服を着た彼が表紙を飾っている雑誌は、隣に立つ女性も手にしてレジへと歩く。

小さい頃からずっと一緒にいた彼はいつの間にか私だけのものではなく、世間の女の子みんなのものになっていた。

ああ、違う。
これでは語弊がある。
彼は誰のものでもなかった。
その前に"もの"ではない。

中学に入学してモデルという仕事を初めた彼とは一緒に過ごす時間も減ってしまった。
予定を合わせて会っていたわけではないが、お互いの部屋が自分の部屋と言ってもいいほど行き来していた私にとっては自分の空間が半分無くなってしまったような感覚だ。

考えていたことに小さく溜息をついてお店を出て、もしかしたら、なんて淡い期待を抱きながら足早に家路を歩いた。


「おかえり」


玄関で見慣れた靴を目にして駆けるように自室へと戻れば、ベッドで寛ぐ彼からの優しい言葉。
ただいま、と返そうとも私の喉は何かがつっかえて上手く声が出てくれなかった。


「なに突っ立ってんスか」


身体を起こして私に目を向ける涼太は雑誌の表紙のような小奇麗な服なんて纏っていなくて、黒のタンクトップにグレーのハーフパンツなんて履いたその辺のコンビニでよく見かける少年の格好だ。
だけどこれが私の知ってるいつもの彼の姿。
雑誌を見かけたときには彼だと完璧に認識しているというのに、今の彼を目にするとさっきのアレは誰だったんだと頭が困惑する。

居場所が半分無くなったと悔しがる私に対して彼は何も変わらないというように私の部屋を自由にする。
先月表紙を飾った雑誌を乱雑にテーブルへと投げ、抱いていたクッションを私へと放る。
上手くキャッチ出来ずに胸にぶつかったそれは音も無く床を転がった。
仕返しとでも言うように持っていたバッグを彼へ投げれば、うおっ、と小さく驚愕の声を上げて見事それを掴む。


「ちょ、これは固いし重い!」


しっかりと板が入ったバッグは皮も厚く重みもある。
クッションに比べれば、そうかもしれない。

だけど私が投げたい気持ちはそんなものよりずっと重いんだぞ。


「なんで居るの」


俯きがちに呟くようにそう言えば、彼はただ不思議そうな表情を浮かべて首を傾げる。
いつものことだろ、と目が私へ訴えた。


「人気モデルなんだしこんなとこしょっちゅう来てたらマズイんじゃないの」


あからさまに不機嫌ですという声音で掴めなかったクッションを拾い上げながら言うと、彼の口端がゆっくり上がるのが視界の端に見えた。

いつもこうだ。

私が怒っていようと不機嫌だろうと彼は厭らしく笑う。
私が何を考えているかも知らないくせに、見透かしたような目で私を見据える。
可笑しいことなど一つも言っていない私がさらに機嫌が悪くなることも、彼は既に知っている。







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