黒子のバスケ short

□Please find my feeling.
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何かが欲しいとか、そんな物は何もない。
ただただ私は、気付いて欲しいだけ。





「おらっ、黒子!バテてんじゃねーよ!」



誠凛高校のバスケ部主将を務める彼は、私の彼氏になって約四年。
バスケを辞めると言って来た時には、何も言葉をかけてあげることが出来なかった。
今まで部活に費やしてきた時間全てを取り戻す勢いで私との時間を大事に過ごしたいと言われ、少しでも嬉しいと思ってしまったあの日の自分を殴り飛ばしたい。

だって私は、バスケをしている彼を見て好きになったんだもの。

出来ない自分に奥歯を噛み締めながら練習に打ち込む姿が余りにも素敵で、いつしか試合にまで応援しに行くようになった私に気が付いていてくれた。
クラスも違うし名前も、顔ですら知られていないと思っていたのに、その日負けた試合で観客席から動けなかった私に声をかけてくれた。
その時どうして謝られたのかは未だにわからないままだ。


「あ、明良」


中で見てたらいいのに、というリコの言葉に首を横に振る。
今の私にそんな勇気は毛頭ない。


「いいの、…ここからで」


一年生を叱る姿にも貫禄があるように見える。
彼はもう、私のことなんて目に入っていない。
バスケをしている彼が好きだけど、私だけが彼を好きで、好きな気持が大きすぎて、それが彼の重荷になっている。
ハードな練習で疲れていないわけがないのに、部活が終われば必ず近所の公園まで来てくれる。
学校では二人で過ごすことなんて出来ないからと、無理して二人の時間を作ってくれている。
何度も断ったというのに、困ったような笑顔を彼は浮かべるのだ。

その笑顔が、私には辛い。


「一分休憩!」


リコの声が響く館内で、ぞろぞろと壁際のタオルとドリンクへ手を伸ばす部員達。
入り口で見ていた私に気付いたのは、同じクラスの伊月くんだった。


「真滝さん今日もこんなとこで……」

「え、あー……うん」


呼ぼうか?なんて言われても部活中に彼女が呼び出すなんて出来るわけがない。
しかも主将を。
そんな迷惑かけたくない。
思いきり首を横に振って拒否すると、苦笑で返された。

どうして伊月くんは毎日同じ質問をするのだろう。
断るのはもうわかっているはずなのに。

休憩終了の号令が飛び、伊月くんもコートへと戻る。
それから何度も休憩を挟んだが、結局最後まで順平が私に気が付くことはなかった。

一緒に帰れたら、なんて淡い期待を少しだけ持ったまま部室近くでリコと話す。
今年は凄いと豪語する彼女に思わず私の頬も緩んでしまう。
木吉くんも戻って来て、凄い一年生がいることもなんとなくわかる。
だから、彼が部活の話をしている時の顔にも納得がいく。

嫌いではない。

むしろその顔が私は好きだ。

彼の目標を応援したい気持ちだってもちろんある。
だからこそ、話さないといけないことだと思うんだ。


「あ?明良?」

「おつかれ!」

「珍しいな、来てたのか」


リコと伊月くんが発言しようとしていたのを目配せで止めて、順平へ詰め寄る。


「うん、送ってってよ」


ダメもとで言ってみた。
この時間に学校を出て、あの時間に公園にいるということは、多分いつもチームメ イトとどこかに寄っているはずだ。
バスケ一色と言ってもいい彼の生活は帰り道も違いないはず。
だけどその邪魔をしているのが、私なのだろう。


「あーー……」


悩む彼を見ているのが辛くて思わず俯いた。
わかっていたことだ。
期待だって淡いものだった。

付き合い始めやバスケから離れていた時は彼

の方が待っていてくれていたというのに、四年も付き合えば慣れというか、順平の私への気持ちが薄れているのが手に取るようにわかる。


「おい日向、」

「ん!今日は一人で帰る!またね!」


伊月くんの言葉を遮って手を振る。
気持ちに反した笑顔は作れていたはずだ。
リコが眉尻を下げているのが見えたが、彼女にも笑顔で手を振れば口を噤んで手を振り返してくれる。

そんな顔させてごめんね。





「日向お前なー、彼女ぐらい送ってってやれよ」

「あ?今日も反省会やんだろ?」

「〜〜〜いいわよ今日くらい!もうあんな明良見てらんない!追いかけろ!これカントク命令じゃなくてあの子の友達として言ってるからね!」




校門を出た後に、そんな会話がされているなんて私は思いもしなかった。






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