弱虫pdl

□誇らしさと嬉しさと、(5)
2ページ/3ページ




「新鮮じゃァ。宮と明良ちゃんが仲良いとか」


待宮が薦める広島焼きのお店へ入った3人は、掘りごたつの座敷に腰掛けテーブルを囲んだ。淡い橙色の照明と焦げ茶色の壁とテーブル、鉄板では既に広島焼きが焼かれていて、一文字を両手に持った待宮がペロリと舌を出して面倒を見ている。時折明良が「私がやる!」と好奇心で手を出そうとすることに、彼が本気で怒る姿を見て井尾谷は微笑んでいた。


「素人は手ェ出しちゃァいけん!蕎麦に焦げ目つけんの難しいんじゃけェ!」

「やってみないと成長しない!もしかしたらウチでもするかもでしょ!」


その声にムッと眉間に皺を作った井尾谷が煙を手で払いのけながら明良を見遣る。もしかしてこの2人一緒に住んでるのかという勘違いから話題は金城や荒北のことにまで移り、3枚目を注文したところで明良が漸く一文字を持つ許可を得られた。説得した井尾谷に待宮は渋々といった様子だったが、明良が作るゴハンに一応まずいものは無いからと心配しながら見ていたものの、案の定卵と蕎麦は焦げてしまい彼の目尻は吊り上がることとなってしまった。


「ごめんなさい」

「オマエん家で広島焼きする時はワシが作る」

「間違いないです」


しゅんと肩を落とす明良に井尾谷が声をかけようとしたとき、僅かに捲られたカーディガンの袖の奥に真新しい痣を見つけた。


「明良ちゃん、この痣なんじゃ?」


テーピングが巻かれた腕から少しだけはみ出たようなその痣は、明良の白い肌には目立ち過ぎると言っても過言ではない。井尾谷の科白に待宮も目を向け、さっと隠した彼女の手を取ってその痣を確認した。


「あ、き、昨日転んだ」

「転んでこんなとこ痣出来るんかァ?」


焦りながら答える明良に待宮は目を細めてその痣を睨む。眉根を寄せた彼が舐めるようにそこから彼女の泳ぐ目へと視線を移し、さらに眉間に皺を刻み問い質すようにだ。


「受身取った」

「顔は大事じゃけェのォ!」


そうそう!と井尾谷に共感する声を上げた明良は未だ腕を取られている待宮へと振り返り、「転んだだけだから」と笑顔を見せて鉄板へと視線を戻す。痣を隠すためにこんな暑い日にカーディガンなんて着ているのかと考えた待宮だったが、彼女が肌を見せなくなったのは初めて部活に遅れて来た日からだと思い出せばあの日頭の片隅に残ったモヤが大きくなった。

あれから明良は度々部活に遅れて顔を出す。昼寝をするならそれが許された部室がある上に、寝すぎて練習に遅れることなど彼女に限って有り得ない。誰より早く来て準備をしていた明良が寝ていて遅刻するなど有り得ないのだ。
不審に思った待宮が明良の顔を覗き込むも、その表情はいつもと変わらず笑みが浮かべられている。小さな口でほくほくと広島焼きを美味しそうに頬張る姿に、彼は考えすぎかと大きく息を吐いた。


「どこで転んだんじゃ?護衛隊長もおんのじゃろ?」

「なにそれ」

「宮が言いよったけェ」

「さながら金城は真滝の護衛隊長じゃろ?」

「ワシも入る!」

「入らんでエエ。足りとる」

「宮ァァ!」


ケラケラと笑い合う中、明良はギュッと自身の腕を掴んだ。





次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ