::: 部室での明良の昼寝が定着して随分経った。残っている1年生も俺を含めて4人しかいない。金城、巻島、俺、それとマネージャーの明良だ。今日も今日とて彼女は部室内にあるベンチで横になっている。 放課後のHRが終わった途端、明良は俺のクラスへ飛び込んできた。ざわついた教室が一瞬で静かになったのは話題の人物が1番遠いクラスに属しているというのに現れたため、それと入って来るなり一言も発さず俺の席へ突っ伏したからだ。「じーーんーー」とわざとらしい泣きそうな声で名を呼ばれて、何事だと不安にもなったが気分は悪くなかった。なにせ学校一の美女が弱ったところで俺へ助けを求めに来たのだから。だがクラス中の視線はやはり痛いものがあり、その場から彼女の腕を引いて部室へと連れて来て、着くなりベンチへ横になられて今に至るのである。 「どうした」 「裕介が、」 「また巻島かよ」 どれだけ喧嘩すれば気が済むんだと呆れてしまう。もう見慣れた光景にはなったものの、誰もその言い合いを止めようとしないから俺も放っているのだが、それでも助けを求めに来られては口を出さずにはいられない。傍から見れば巻島も明良に気があるとわかるのに、アイツはどうしてこう何度も彼女を怒らせるのだろう。少しは金城を見習って欲しい。 「裕介がグミ勝手に全部食べてた」 「グミ?」 「これ」 明らかに何も入っていないとわかる潰れた袋が明良のポケットから出てきた。見慣れないパッケージだが見覚えはある。今朝コンビニで初めて見るからと好奇心で買ったもので、一口食べてみたもののメチャクチャ美味いとまでは言い難かった。明良にでも譲ろうと考えていたものが、まさか彼女のお気に入りだとは思いもしなかった。 「これ美味いか?」 「美味しいよ!」 ガバッと勢いよく顔を上げた明良の眼前にまだたっぷり入っているそのグミを差し出せば、彼女は数回瞬きを繰り返したのち見違えるほどの笑顔を浮かべる。あまりの可愛さに自然とその頭へ手が伸びてしまい、髪を梳くように優しく撫でた。 「やるよ」 「あーりーがーとーーー!」 飛びついてきた明良を抱きとめた瞬間、彼女の肩越しに見える部室の扉が開き、巻島が固まっている姿を捉えた。明らかに不機嫌な表情で寄ってくると無言のまま明良の首根っこを掴み、俺を睨みつけたまま小さな身体を引き剥がす。あからさまなその態度は、腹ただしく感じるどころか実に面白かった。 「お前がグミ食ったって明良機嫌悪ィぞ」 笑いを堪えて事情を話せば「はァ?」と巻島の表情はさらに歪む。ベンチへ座らせた明良の前に屈み必死に目を合わせようとする巻島から、彼女は俺の背へ隠れるように寄ってきた。 「ガハハハ!巻島、明良のお気に入り食うのは無ェだろ」 「アレは俺のっショ」 深い溜息をついた巻島が呆れたように前髪をかき上げると、明良はペロリと舌を出して恍けた顔を覗かせる。「お前な……」と俺も呆れたように声を出すと、彼女は眩しいくらいの笑顔を見せた。 「裕介ケチだから1個もくれなかったのに。迅と大違い」 もう一度「ありがとう」と感謝を述べた彼女は、俺だけに満面の笑顔を見せた。 それは俺の口元を無意識に緩め、彼女のこの笑顔を守りたいと恥ずかしく思いながらも心に誓った。 END ━━━━━━━ 【自慢であり誇りである。】田所と明良さん。 (プリーズ ブラウザバック) |