::: 「***ちゃん!」 目的地で真っ先に声をかけてきたのはさつきちゃん、桃色の綺麗な髪を靡かせて私に飛びついて来ては頬を摺り寄せてくる。 一緒にここまで来た大輝はそんな私達に目もくれず片手を上げて誰かに声をかけていた。 「みんなに***ちゃん紹介するって大ちゃん朝から張り切ってて」 みんな?と疑問符を浮かべた私はさつきちゃんの視線の先を追ってみる。赤に緑に紫に黄色、大輝よりも薄い青色や真っ黒の髪をした集団がそこにはいて何もしてないのにどうしてか疲れてしまった。 だって、なんだか目がチカチカする。 「さっちんが潰しそうになってるアレだれ?」 「わーー細っそ、青峰っちの知り合いッスか?」 「あー……彼女」 え!!!!!と物凄い大声が聞こえたけど私の顔は未だにさつきちゃんの胸の中にある。苦しいから離してと押せども寝起きすぎて力が入らない私は飽きたら離すかと抵抗するのもやめていた。 いくつかの足音が遠くから聞こえたかと思えばボールが跳ねる音もする。 漸く開放された私は一息ついてからそちらへ目を向ければフェンス越しに見えるバスケットコートの中で大輝が小さく手招きしているのが見えた。 「バスケ?するの?」 「言ったろ」 「うん聞いたけど。見てるの疲れそう」 「座ってて疲れんのかよ」 「目が疲れそう」 「お前は俺だけ見てりゃいいんだよ」 フェンスを挟んでいなければ頭を撫でてくれたのだろう。伸びてきた手が目の前で止まって大輝は間抜けな顔して「あ」と小さく声を発する。すぐに戻された手は行き場を失って彼の頭を乱暴に掻いてしまった。また顔が錆色みたいになってる。彼のこの顔を見ただけで目が覚めてしまったようだ。だって嫌いじゃないんだもの。 「青峰っちの彼女さんもやる?」 あ、黄瀬くんだ、と見上げてみれば大輝がすぐに連れて行ってしまって返事をすることは出来なかったけど、「黒子です」と名乗ってくれた彼がコートから出てきて近くのベンチにタオルを敷いてくれた。 「桃井さんと***さんは見てますよね」 さっすがテツくん!と頬を赤らめてキラキラした粒が周りで弾けているさつきちゃんはきっと彼に好意を抱いているのだろう。私が大輝と話すときにもこんな顔をしてるのかな。してないな。 「おいテツ!***にかまってんなよ!」 眉間に皺を寄せて怒鳴っている大輝を一瞥した黒子くんはそれに返事をすることなく私へと振り返る。無表情の彼と目が合ったかと思えば柔らかく微笑まれて「大変ですね」と小さく呟かれた。 3on3とやらをやるらしいからコートに残るのは6人。ジャンケンで負けたらしい紫原くんは悔しがることなく私達のベンチへ腰掛けてどこから出したのかわからないお菓子を頬張り出す。 「さっちんも食べる?」 「ゴハン食べてきたからお腹空いてない」 「***ちんは?」 「あ、私チョコ買ってたんだ」 「なにそれ新しいの?」 そういえば黒子くんも私の名前知ってた、自己紹介なんてしてないけど大輝が先に教えてくれたのかな。隣でさつきちゃんが「紫原敦くん。ムッくんだよ」と教えてくれたけど紹介された彼もしてもらった私も新発売のチョコレートに夢中で聞き流すだけとなってしまった。だって、予想以上に美味しいんだもの。だからさつきちゃんにも勝手に渡す。 「***ちんって峰ちんの彼女なんでしょー?」 「大ちゃんのどこがイイの?」 ただのヘンタイじゃない?と言ってくるさつきちゃんにはとりあえず「ほんとだよね」とだけ返しておく。だって最近のエッチは本当にアブノーマルなんだもの。この前は手と足を縛られて、その前は媚薬を飲まされてからの目隠し。怒ることはないけど気まぐれに不機嫌になってみせれば小声でも謝ってくるその顔が面白いから乗っている。色んな表情が好きって思える、だからなんでも許せちゃう。 「こっちも食べるー?」 「食べる」 コートを見るのなんて忘れて紫原くんとひたすらお菓子を頬張っていれば汗を拭いながら皆が出て来た。 「青峰っちアンタが見てねぇってすっげーキレてたよ?」 「青峰マジ容赦ねーの、当たり強すぎ俺軽く飛んだかんね?」 人間も空飛べるよ真ちゃん!と黄瀬くんと一緒に話かけてきたのは高尾くんというらしく、満面の笑顔で手を差し出されればそれを握らずにはいられなかった。ぶんぶん振られた手は少し痛かったけれど大輝が乱暴にそれを引き剥がして高尾くんは眼鏡の人に投げ渡される。「ほんとに人って空飛べるんだね」なんてさつきちゃんと言っていれば前に立たれた人に視線を奪われてしまった。 「初めまして、青峰とは中学時代同じチームだった赤司だ、聞いているかな」 柔らかく微笑まれたけど目がちょっとコワイな、と視線を外せばその隣には高尾くんを適当にあしらう人が「緑間だ」と名乗ってくれて、私が呆けたまま何も言わないせいかフンと鼻を鳴らされてしまう。 「俺達のことはさすがに知ってるか」 「交際を始めて半年以上経つと聞いているからな、WCの優勝チーム選手はあそこにいる黒子と火神くらいだが」 彼等の視線の先を追えば黒子くんがまだ火神くんとやらの相手をしていて、コートからはボールの弾む音が聞こえていた。 「ごめんなさい、私大輝の試合とか全く見たことなくて、皆さんのことも知らないです」 昔の話とかも聞いたことがないので、と言えば隣からはさつきちゃんの「やっぱりか」と呆れた声が耳に入ってくる。興味が無いわけじゃないけど聞く機会が無かったんだもの。 前に立つ彼等は一瞬きょとんとした表情を見せたが、赤司くんは可笑しそうに笑い「そうか」とだけ声を発するとすぐに踵を返して大輝のもとへ足を進めてしまった。 |