黒子のバスケ short

□マイペースデート
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それより、と大輝が手にしているバケツと網へ目を向けると彼は至極不機嫌そうな顔をする。
「文句言わねーんだろ?」と言う彼に何するのと問えば元気に「ザリガニ捕るぜ!」と答えた。


「……ザリガニ?」

「ここ捕れんだよ、意外と」


お洒落なお店なんて期待はしていなかったがまさか高校生にもなってザリガニ捕獲をさせられるとは思っていなかった。
なんだろう、もうなんというか、愛おしい、色んな意味で。


「なに笑ってんだ」

「いや、何でもない、ていうか、大好き大輝」

「あ?」


バカにしてんだろ、と言う彼にバカになんてしていませんと答えればまた不機嫌そうな顔をする。
だけど始めたザリガニ捕りは予想以上に楽しくて柄にもなくはしゃいでしまった。
「なにこれ楽しいじゃん」と言う私の発言に満面の笑顔で「だろ?」と答える大輝も本当に楽しそうで、時間はあっという間に過ぎて空は紅く染まり暗くなりつつあった。


「まさか一日ザリガニ捕獲で終わると思わなかった」

「いや俺も」

「またやりたい」

「休みあったらな」


頭を撫でてくれる大輝の手は大きくて温かくて大好きだ。
雑誌に載っている"素敵なデート"なんかよりこっちの方が断然面白い気がする。
いやでも、大輝とだからかもしれない。
幸せだと感じていれば彼の顔が怪訝なものになり、「げ」と言う声に目線の先を私も捉えた。
真っ白なワンピースには所々に点々と泥水が跳ねていて、この後の予定を思い出したのか大輝の顔は青褪めている。


「顔色髪の色と被りそうになってるじゃん」

「そんなこと言ってる場合かよ」

「大丈夫、ウチの親ゆるいから」


そんなことを言っても大輝の顔色は戻ることはなくて、「彼氏いるっつった日に連れて来いって親がかよ」なんて言いながらハラハラしている様子が笑えてしまう。
ハンカチで軽く落とすもやはり薄くは色が残ってしまい、仕方ないかと家路を歩く。


「そういえば、なんであの写真消さないの?」

「写真?」

「うん、あのわけわかんない体育倉庫の写真」


ブレブレのやつ、と付け足せば、「忘れないようにするため」と答えた大輝はまた私の頭を撫でてくれて、その後に優しくキスをくれた。やっぱり愛おしい、大好きだ。

事前に連絡していたせいか母は化粧までして余所行きの服で出迎えてくれた。


「いらっしゃ〜い」

「ただいま」

「お……お邪魔します」


何度も来たことがあるのにおずおずと玄関をくぐる様子だとか、恐らく緊張でギクシャクと頭を下げる様子だとか、もう面白くて仕方ない。
大輝はやっぱり私を笑わせてくれる。


「青峰大輝、です」


ダイニングのテーブルでは父がこれでもかと怒ってる顔をしていたが、なにその顔初めて見たと私が笑えば一気に力が抜けたように腕組を解いた。


「明良の父です、今日は何してたんだ?」


少しだけムスッとした表情に大輝が答えにくそうだったから、私が「ザリガニ捕ってきた」と言えば父よりも先に母が反応した。


「は?ザリガニ?」

「うん、そう、ごめん、これちょっと汚しちゃった」


ワンピースを引っ張って汚れているところを主張してみたが母はそれに目もくれずに父へ走り寄っていた。


「キャーーー!お父さんザリガニ捕りですって!」


興奮した母に驚いた表情をする父。
私と大輝はと言えば何がどうしたと言わんばかりのキョトン顔で次に出す言葉を見つけ出せない。
その直後にゲラゲラ笑い出した父に私も大輝もギョッと肩を跳ね上げた。


「楽しいもんな、ザリガニ捕り」

「お母さん達も初めてのデートザリガニ捕りだったのよ!それがもう楽しくって私お父さんに夢中になっちゃったの!」


「ねー!」なんて言う母は満面の笑顔で、その隣では父が大輝に前の椅子へ座るよう促していた。
まさか両親までザリガニ捕りが初デートだとは思いもしなかった。
高校生にしてはマイナーな遊びだと思っていたのに違うのかもしれない。いや、そんなわけないか。


「大輝くん、明良はマイペースでたまに変なこと言うかもしれないけど宜しくな」

「お父さんそれ娘のこと全然褒めてない」

「いえ、あの、はい、楽しいです」


それからは父と大輝の私褒めちぎり勝負みたいなものが始まって一緒にいるのが恥ずかしくなってしまい、着替えて来る、と自室へ戻ろうとすれば母に呼び止められた。


「大輝くん、凄くいい子ね、黒いけど」

「うん、そう、凄くいい人だし凄く面白いの、黒いけど」


小声で話す私達の会話は父にも大輝にも聞き取れないだろうが、楽しそうに話す父を久しぶりに見た私はそれだけでも嬉しかった。
やっぱり大輝は私を笑わせてくれる。
私だけじゃなくて、父も、母も。
好きだな、と改めて感じてしまう。
健全なお付き合いをしているとわかった両親に何度かこの家へ来たことがあるとは言えなかったが、どうやら大輝は大分気に入られたらしい。
今度家族で、彼のバスケの試合を観に行こう。




(ご飯も食べて行きなさい、お家へ連絡を入れて)

(あ、はい、ご馳走になります)

(いっぱい食べてね、明良のご飯美味しいから!)

(え、私が作るの)






END
(プリーズ ブラウザバック)


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