ポケモン夢

□ジムせん
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声をかけてから少し経つが、中から返答は無く、物音ひとつ聞こえなかった。

反応がないとなると、こちらとしてもどうしていいかわからない。
考えすぎで熱くなりそうな頭を 鉄のように冷たく光を反射する ジムの扉に押しあて、考える。
押し入るわけにもいかないし、かといって出直すというのもできない。それには訳があるのだが、長くなるのでよしておく事にする。

それにしても、この扉の冷たさ ちょうどいいなぁ……。
なんてどうでもいいことを考えはじめたとき

「…どちらさまですか?」

躊躇いがちな声が、背後から聞こえた。


自分としてはあまりに唐突なことで、見ている方がぎょっとするほど 素早く振り替える。実際、声の主と思しき人物の顔、ジムリーダーさんの顔は 当にソレだった。

「え、っと…」

おい自分、そんなこと言えば怪しまれるだろう。
加えて 相手の気持ちになって考えてみれば、自分は『いつの間にかジムの入り口にいて、扉に頭を押し付け何かぶつぶつ呟いている変な人』なんだから!

ここは変な人から不審者へレベルアップせぬよう、うまくやらねば。

「あの、こんばんわ」
「こんばんわ…」
「…っと……」
「……?」

言え!言うんだ自分!
早くしないと時間が来ちゃうよ!何のためにこんな時間に、こんなに急いで来たんだ!
ほら、ジムリーダーさん困った顔してるよ!


心のなかで自分を奮い立たせる文句を並べながら、視覚的勇気を貰おうと 少し離れたところで待機するアルゥと"犬"をチラリと見た。
…何やら二匹で話している様だ。自分を助けてくれる気配は 無い。

もう 当たって砕けろ。

「私、今日の昼にジム戦を依頼していた者です」
「…あぁ、なるほど。どうかしたか?」

この『なるほど』はきっと思い出してのなるほどだろう。
それはともかく、本題だ。きちんと言えるかな…?

「実は、忘れ物をしてしまった様なのです。これくらいの大きさのペンダントなのですが、落ちていませんでしたか?」
「あぁ……?」

よし、言い切った!第一関門クリアだ!
反応が少し気になるけどそれは良いとしよう。

「うぅん……」

一安心したせいか、少し眠くなってきた。いや 寝ちゃダメなんだが。
後でアルゥに起こしてもらおう、なんて思いながら、相手のジムリーダーさんの返事を待つ。
考え込んでいる様子だった。

「ソレらしきものがあったような…無かったような…」

挑戦者の一人に過ぎない自分のために、ここまで脳を使わせるのが申し訳なくなってきた。


ジムリーダーさんと挨拶を交わしてから数分経つが、相変わらずアルゥ達は話し込んでいるようだ。
アルゥらを呼んで帰ろうかと思ったけど、そんなに楽しそうに話しているのを見ると、呼びにくいじゃないか。ジムリーダーさんにも話しかけづらいし、どうするべきか…。


「…悪いが、思い出せない。何しろジムの中は広いからな。ソレくらいの大きさであれば、小さすぎて見落としているのかもしれない。
 そちらに時間があるというなら、中に入って探したらどうだ?」

「いいんですか?」

「あぁ。こんな時間に来るということは、相当大切なモノなんだろうしな」

とても素敵な笑みを浮かべ、「待ってろ」と言いながらジムの鍵を開けるジムリーダーさん。
それを見ていると、自分が先ほどまで思っていたことが とても失礼な事に感じた。
それと同時に、やはり彼は 巷の女の子達が 憧れ歓喜するに相応しいイケメンだと言う事と、"彼は自分のことなど覚えていない"と言う事実を まざまざと見せつけられている様だった。







「ほら、どうぞ」
「ありがとうございます!」

少し鍵を開けるのに手こずった様で 時たま焦ったような声が聞こえたが、無事に開けられた様だ。

先に入る彼、ジムリーダーさんを見届けてから、待機していたアルゥと"犬"を呼ぶ。

「おーい、何やってるの、中に入れて貰えるから着いてきてー」

《はーい》
《ほーい》

二匹はパッとこちらを向いたかと思うと、持ち前の素早さをフルに使い、一瞬で横へ来た。
当に飛んできたという表現がぴったりのスピード。

先程話していた内容が気になったので、聞いてみた。

「何の話?」
《《なんでもない》》

息の合った返答。
こう言うときは何を聞いても答えてくれないんだよな。
アルゥは"犬"のことをよく思ってない、なんてオーラを出しつつも、結構仲良さげにしているからなぁ…。ツンデレってやつかなぁ。

アルゥと"犬"の顔を交互に見ていると、そんなことをぽーっと考えて、笑えてしまう。


「おーい、何かあったか?」
「いいえ!すみません、今いきます!」


さて、早いことペンダントを見つけて、ジムリーダー…グリーンさんに迷惑掛けないようにしなくては。


「行こうか」

誰に言うでもなく呟いて、明るくなったジムの内部へ 足を踏み出した。

グリーンさんに迷惑掛けないように…というのももちろんある。
ボロを出さないように、というのもある。

でも一番大きいのは―――――


―――――私の体が持たないから、ということだ。



→あとがき
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