ポケモン夢

□あの日の日常
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しばらく降り続けていた雨も止み、からっと晴れたある昼のこと。

季節相応の陽気に包まれた外では、子供が遊ぶ元気な声が聞こえていた。

その楽しそうな声に触発され 家の窓から外を覗けば、この近辺に住む子供達が外遊びに興じる姿や、それを微笑ましげに見守る親、また近所の人と談笑する姿が見受けられた。
やはり人間というものは、外にいることが好きなようだ。


そんな楽しい外の様子とはうって変わり、おおよそ子供らしいとも言えない室内遊びをしながら、私は窓から見える外の風景を眺めていた。

時おり窓辺を"蝶"が飛んできたり、それを追いかける子供達が横切るのを 羨ましいと思いながら。




「名無しさんー!」

少し物思いに沈んでいた時、外から自分の名を呼ぶ声がした。

「遊ぼうぜ!」

それまで動かしていた手を止め、声の主を確認するため 立ち上がる。
確認しなくても解るが、念のためだ。

いつも一緒にいるアルゥも、私について窓辺へ移動した。


「誰?」

「よぉ!」

元気な声と 子供らしい笑顔もセットにしてそこに居たのは、一人の活発そうな男の子。
この土地で 友達らしい知り合いも居なければ、外に出て遊ぶこともしない。外に出たと思えば 大人達にくっついて回るのみ、という私の元へよく来る子供だ。彼の祖父と私の養父母が研究者である、という繋がりがあるからかもしれない。


「今日はどこにも行かねーの?」

「グリーンさんか、」

「だからぁ!」

面倒臭そうに返事をしてしまったことに気づいたのだろうか、彼は少し怒ったように声を荒げた。

「『さん』はいらないって何度も言ってるだろ」

なるほどそちらだったか。
ならば怒るのも仕方がないな、何度言われても直そうとしないのだから。
(返事の仕方にも問題はあった)

「善処します」
「またそれかよ!」

適切に処置しようと思えば、結局『さん』付けに戻ることは言うまでもない。

彼は私の返答に対して思うところでもあったのか、やんややんやとお小言を並べていた。




「ところで、どこかに行くの?」

いつも通りの会話(?)を終え、始めに彼が言っていた事について聞く。

「いや、名無しさんがどこかに行くなら、それについていこうかと」

「何も良いものは無いよ」

ここで言う良いものとは、子供が望むような、甘いものだとか 美味しいものだとか 遊べる何かを指す。(偏見)
しかし、彼はそのどれにも興味がないようで、

「名無しさんといると、ポケモンにたくさん会えるからな!良いことはあるんだ!」

「お、おぉ…」

そうキラキラした目で言わないで欲しい。
だが、流石 研究者もといポケモン博士と呼ばれる人物の 孫なだけはある。ポケモンというものをもっと知りたい…そんな様子がうかがえた。

あぁ……彼には同年代にそんな趣味の通じる友人は居ないのだろうか、と他人の事ながら心配になる。私の事は抜きにして。


そんな私の思いも関係なしに、彼は嬉々として目的地について話を続けた。

「今日はトキワシティの方へ行ってみようぜ」

「わかった。今から出るよ」

「早くしろよー」

幸か不幸か、ちょうど家には私しか居なかった。
玄関に鍵はかけるとして、アルゥも付いてくることだし 夕方までに戻ってくれば大丈夫だろう。


「行ってきます」
「早く早く!日がくれちゃうぞ!」
「待ってよ」

こうして、私の日常は過ぎていくのだ。







「今日はあまり見つけられなかったなー」

「雨上がりってのも あるのかもね」


お互いに残念だと言い合いながら 家路をたどる。

残念な気持ちがポケモン好きに火をつけたのか、途中から彼はこの辺りに生息する生き物について 熱心に語り始めた。

…正直よくわからなかったので、適当に相槌をうっていたが。
これが知れたら相当怒ることだろう。


だけど、その彼が語った内容から改めてわかったことがいくつかある。

一つに、ポケモンというものは 多様性があること。
もう一つに、この世界にポケモンは必須なのだ、ということだ。






「じゃ、またな!」

「うん、また」


家の近くまで来て、わかれた。

晩御飯のいい匂いがする。
今日のご飯はなんだろう。



「ただいま」

「「おかえりなさい」」


美味しそうな匂い。


「今日はどこまで行っていたの?」

「トキワシティの前の道」

「楽しかったか?」

「……うん、楽しかった。ね、アルゥ」
《うん!後ろから見てたけど、名無しさんとあの子の様子、とっても面白かった!》

「そうかそうか」
《あ!適当な返事!面白かったってのに!》

アルゥに適当に返して、少しムスッとしている様子が面白くて、笑ってしまう。
それを見て、何を思ったか幸せそうに笑う義両親。

《もぅ…》

義両親も笑っていることに驚いたのか、恥ずかしそうに顔をそむけるアルゥ。
少しかわいかったので、撫でまわしてやった。




帰ってきたら、あたたかい声が返ってくる。

今日みたいに、外に連れ出してくれる人が居る。


これがたまらなく幸せである、あの頃に戻ったようで。





ーーー


「あら、オーキド博士のお孫さんだわ」

「あら本当。またあの子と一緒ね」

「研究者を身内に持つもの同士、気が合うのかしら」

「さぁねぇ……」

「そういえば、うちの子に聞いたんだけど、あの子がいると ポケモンがたくさん寄ってくるんですって」

「そうなの? ……だからあそこの奥さん、あの子を引き取ったのかしらねぇ…」

「研究が捗るから。なんてね」

「嫌だわ、そんな子供を道具みたいに…」

「冗談よ」


〜とある奥方らの会話〜抜粋



ーーー
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