ポケモン夢

□ジムせん
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「強かったなぁ」

あるジムを出て呟いた。

《すごかったね》

我が弟、アルゥも うんうん頷いている。

それを横目に、傷ついた仲間を癒すため、ポケモンセンターへと足を向けた。


アルゥをここまで言わせる相手だ、やはり中々の奴だったのだろう。
いや、奴は失礼だな。

《そういえば、》
「なに?」

ジム前の段差を乗り越えた所で、アルゥが言った。


《"あいつ"ってさ、どこかで会ったことがあるのか?》

「……さあね」


今はそれを言うだけで精一杯だった。


私たちの頭上では、"カラス"が特徴的な鳴き声をあげながら、どこかへ向かって飛んでいた。

そろそろ家に帰る時間だ。





ーーー




「おまたせしました!
あなたのポケモンは皆元気になりましたよ!」

「ありがとうございます」


丁寧に礼をするジョーイさんに軽く会釈をして、ポケモンセンターを出る。
空は既に暗くなっていた。

《これからどうするの?》
「どうしようか」

しばし考える。

「頼まれ事もないし、ジムも制覇したし…」

ううん、何か大事なことを忘れている気がするのだが……

「とりあえず、寝るところを探そうか」
《さっき頼んだらよかったのに…》

横でアルゥがため息をつくのがわかった。




ーーーよいこがそろそろ寝る時間ーーー



「あ!!」
《何っ!?》

漫画のごとく布団から飛び起きる。
その拍子に、横で寝ていたアルゥも起こしてしまったようだ。
悪いとは思うが、今はそれどころではない。

「思い出した」
《大事なこと?》

アルゥの問いかけに頷きながら、出掛ける準備をする。
ボールをもって、鞄を持って……

余程焦っていたのか、確認のため指差し確認していた手が滑り、ボールの一つに触れてしまった。
とたんに出現する、一匹の大きなオレンジ色の毛並みを持つ"犬"。

《何事?》

彼はそう言って くぁっとあくびをした。
さっきまで寝ていたな、コイツ。早すぎないか。

だがやはりそんなことに突っ込んでいる暇はない。
この世界の常識である、"彼らをボールに入れること"すら時間が惜しい。

「ねぇ、今から人の家に訪ねる事って、失礼かな」
《今ならギリギリ大丈夫じゃないかな》
《こっちは人間の常識なんて知らんがのぉー》

確認を終えて一息ついてから、変顔をしながらバカにしたように言う"犬"の口を わしづかみにし、アルゥに向かって言う。

「ジムにさ、忘れ物したみたいなんだ」

《は?》
《ふむ?》

ひとりは何かを察したような顔。
もうひとりは変な顔をしつつ、訳がわからないとでも言いたげな視線を向けてくる。

「だから、ついてきてくれないかな」

部屋のドアへ進みながら、彼らの方には振り向かずに言った。
"忘れたモノ"のことが心配で、心配でたまらない。

その気持ちが伝わったのか否か、ふたりして顔を見合わせている様子が伝わってくる。


《…もちろんついていくけど》
《うん》

少しして、息の合ったリズムで歩いてくる彼らの足音が聞こえた。





ーーー


とあるジム


ーーー


「……………」

《…まさか 尻込みしてる訳じゃないよな》
《まさか、ないよね》
「………!」

同意を求める視線が痛い。

《ね》
《ねぇー?》
「………」

"犬"の方は顔を覗き込みながら、わざとらしく語尾を伸ばして言ってくる。
コイツら…知っててやってやがる。
こうなっては何と言っても仕方がない。おとなしく腹を決めるしかないな。

「う、」
《早くしないと失礼な時間になるよ》

そう言いながら 後ろで背中を押してくるのはアルゥ。
そのまた後ろでは "犬"が攻撃体制に入っているようだ。
………よし。


意を決して、内部のすっかり暗くなったジムの扉を叩いた。

「すみません、誰かいませんか」



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