本・獄都事変
□寝起きじゃ
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いつもと違う匂いに、目を開ける。
そこには見慣れない色。
身体を起こして周りを見回してみても、見たことがない景色があった。
なんでだっけ?
?「ごくと、とか言うところに来たんでしょ?」
『あぁ、そうだった。忘れてたよ』
そうだそうだ…。
………ん?
『あれっ!? なんで流がそこに!?』
バッと声のした方を見れば、暇そうにしている流の姿があった。
昨日荷物は、今自分が着ている服しか出していない。
刀もそのままのはずで、流が座っている窓際からは一番遠い、入り口付近に置いてある。
そんな遠くまで、離れて実体化して大丈夫なのか?
「誰もいなかったし。力も回復したし」
『そ、そう…』
「零はまだだけどね」
なるほど、昨日力を使いすぎた零は、まだ実体化するほどの力は戻っていないらしい。
『ひとまず起きる』
やはり誰に言うでもなく独り言を呟き、布団から降りる。
どうしてここの布団は、一段高いのだろうか?などとずれたことを考えながら。
そのまま昨日佐疫さんが言っていた‘クローゼット’とやらに近づき、おそるおそるといった体で取っ手に手をかけた。
なにぶん見るのも触るのもはじめてなもので、何が出てくるかわからないのだ。慎重にもなる。
その取っ手(とおぼしきもの)は、二ヶ所ついており、どうやら両手で開けるようになっているようだ。
しかし、両手で開けるなんて、片手が塞がっちゃ危険だ!と思ったごんべいは、念のため流を持っている。
「はじめて見たんだけど、これなに?」
当の流は、こちらの気持ちにも一切気つかず、呑気に寝そべっている。
おい、実体化に力使わず守ってくれよ、などと思うごんべいだが、そこは流。仕方ないと理解している。
『いざ…』
「鎌倉」
横で何か聞こえた気がしたが、無視を決め込もうと思う。
そこには、思っていたような変なやつはおらず、ただ一着服があるだけだった。
『ほ、ほぅ。中はこうなっているのか…』
「以外と簡素なんだなー」
『なー』
なにか得体の知れないものが入っているかもしれないと身構えていたが、案外なにもなかったことに拍子抜けしているごんべい。
『制服って…これか?』
そう言いながら取り出したのは、クローゼットにかけられた一着の服。
取り出してみると、なるほど佐疫さん方が着ていた服の色にそっくりだった。
『普通に着ればいいのかな………』
「なんか不思議な形だ」
『ほんとに。見たことない』
今まで見たことも、ましてや着ようとしたこともないので、どうやって着たらいいか疑問である。
ひとまず、繋がったところを外そうと、ハンガーから服をはずし始めるごんべいなのであった。
『この形…どっかで見たことがある気が』
「【働く主婦必見!買い得な洗濯用品!!】って本になかった?」
『………あ、それだ。たしか‘ハンガー’ってやつだよね』
「着方わかんの?」
『これはズボンでしょ。ひとまず先にこれ着るでしょ、』
流とやんややんや会話しながら服を着ていくごんべい。
ズボンは履けたが、上の服に戸惑っているようだ。
『このベルトは上から閉めるもの?』
「ひとまず、」
『着てから考えるか』
間違ってたら佐疫さんに聞けばよい。なんて考えながら。
服を着るだけで大騒ぎ状態のごんべいと流なのだった。
※
流とは
・刀。長いほうの刀。
ごんべいがはじめの方で、でっかい怪物をフルスイングしたときに使ってた得物。
零とは双子みたいなもの。元気っ子。
服装は想像に任せる。
零とは
・刀。短いほうの刀。
ごんべいがはじめの方で、怪物の腹を裂いたときに使ってた得物。
流とは双子みたいなもの。お姉さんぽい。物静か。
基本子のこの二人はごんべいの前にしか姿を見せない。
ごんべいが何かの拍子に意識を失ったり、自分からではないのに眠ってしまったりすると、ごんべいに取りついて、後処理を代行することが多々ある。
もちろん、いたずらをしたいがために、ごんべいが眠ったあとに取りついて、いろいろすることもある。