本・獄都事変
□おこられ?
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佐疫と名無しのが、館へ帰ってきた。
佐疫の顔は、館を飛び出して行く前と比べてだいぶよくなっており、少し微笑みも見せている。
一方で名無しのの方は、所々切り傷やらがあるようで、服に赤い色が滲んでいた。ついでに、なにか白い物体を引きずっている。
二人は玄関に入り、そのまま肋角さんの部屋へと入っていった。
___しばらくして。
いつも通りの表情の佐疫と、少しうつむき、しょんぼりという言葉が似合う名無しのが出てきた。
よく見ると、あの白い物体がない。
「佐疫」
「あ、斬島。ただいま」
『…?』
いきなり声をかけたからか、二人は驚いているようだった。
まぁ、佐疫はいつもの表情に戻ったが、もう一人は固まっている。はて。
「お前は何者だ? 名は何という?」
たしかこいつは、一週間ほど前に連れて帰ってきた亡者ではなかろうか。
しかし、こいつの事を亡者と言うと佐疫に違うと言われたので、本当のところを知りたい。
『ぇあ、…名無しのといいます。この度、獄卒に…なりました』
「…そうか。俺は斬島だ」
『よろしくお願いいたします』
そいつはいきなり話しかけられたことに驚いてか、一瞬ビクとしてから丁重に返してきた。
なかなかやるな、と考えている自分がいる一方で、別の事を考えている自分もいる。これは一体何なのか。
そして、こいつは確かに亡者ではなかったらしい。
新しく獄卒が入るかも知れないという話は聞いていたが、まさかこいつだったとは。
「斬島、まだ起きていたんだね」
佐疫が、ゆったりとした口調で話しかけてくる。
「あぁ、なんとなくな」
「明日も任務あるんでしょ? 早く寝なきゃだめだよ」
「わかっている。佐疫も早く休め」
「うん、わかった。おやすみ」
「おやすみ」
『…お休みなさい』
軽く話してから、お互いに反対方向へと歩き出す。
どうやらこれから佐疫は、数日前に皆で掃除をしたあの部屋に案内するようだ。
もう夜も深いというのに。
あの新人は…、たしか名無しのといったか。
その者に、形容しがたい感情を抱きながら、斬島は眠りについた。