本・獄都事変
□話は一区切りついた?
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佐疫side
なんとなく。
ただ、なんとなーく、肋角さんの部屋の前で待っていた。
自分はこのあと、特に仕事も無いし、明日も今のところ休みだ。
肋角さんが、あの子だけ残したのは、説得するためだろう。
ゆえに、このあと起きるであろうことも、なんとなく予想がついた。だから待っていたのだと思う。
しばらくして。
肋角「佐疫、いるか?」
上司の声が聞こえた。
どうやら、話がついたらしい。
「失礼します」
部屋に入って、見えたのは。
心なしか嬉しそうな表情の肋角さんと、小さな背中をこちらに向けて、うなだれているあの子の姿だった。
肋角さんはなんと言って、どのような話がついたのだろう。
そしてそれは、数秒後にわかることとなる。
肋角「今日から、獄卒として一緒に働くことになった。名無しのだ」
その子は、いきなり名前を呼ばれてか、ビクッとしたあと、こちらを向いて、
「……名無しの…です。よろしくお願いします」
と、もう「どうにでもなれ!」とでも言いたげな目を向けて挨拶した。
名前を言うとき、少し間が空いたのは、まだ慣れていないせいであろう。
少しほほえましい。
言い終わると同時に、勢いよく頭を下げる。
顔をあげると、その表情はさっぱりしたものになっていた。
まさに、何らかの覚悟を決めたような。
肋角「佐疫、名無しのに館と部屋を案内してやってはもらえないか?」
佐疫「はい、わかりました」
部屋というのは、数日前に「使っていない部屋をきれいにしておけ」と言われて掃除した、あの部屋で間違いないだろう。
あの部屋はこの子、もとい、名無しののためだったのか。
と、そこに。
名無しの「あ、あの! 今から家に帰らせてはもらえませんか?」
話しは終わったとばかり思っていたところへ、唐突に、名無しのが言った。
肋角「……………そうだな、獄卒になったら、帰らせてやらんでもない。と言ったしな」
そうだったんですか?
というか、この子家があるんですか!?
肋角「……いいだろう。一度帰ってみるといい。佐疫、ついていってはくれないか?」
佐疫「はい、」
名無しの「一人で行けます」
肋角「だめだ。一人で行ったら、帰って来ないなんてことになったらいけないからな。それに、まだ武器になるようなものを持っていないだろう? ということで、頼む、佐疫」
名無しの「……………!」
佐疫「わかりました。行ってきます」
間髪いれぬ名無しのの発言も虚しく、肋角さんの言う通り、一緒に##NANE1##の元家に行くこととなった。
名無しのは、一緒に行くことが不満なのか、細々とした説明の最中、ずっと無表情だった。
初めは、少し微笑みが見えた気がするのに。