G dream

□アナタと素敵な?ブレックファースト
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王泥喜はAM5:00に目が覚めた。いつもならこのまま顔洗って歯磨いて、日課の発生練習である。だが最近少々勝手がかわり、その発生練習はトイレという個室で行うこととなった。

(よし、今日も大丈夫!)

やたら声がぶつかって返ってくる個室での発生練習は、今ではすっかり慣れたものである。
王泥喜は音を立てないよう部屋に戻ると、今だ眠る恋人、名無しさんの様子を覗き見た。

(うーん、随分オツカレみたいだな)

大体いつも、王泥喜の発生練習で彼女も目を覚ます。そりゃいくら個室とはいえ、ただのトイレである。防音効果などそもそも無いし、音消し的なものが有るわけもない(あっても何の役にも立たないが)。
彼女は昨晩も早々眠ってしまった。元より王泥喜も夜更かしする方では無いので、オツカレの彼女の寝顔を眺めながら眠りについたのだが。やはり少々サミシイ。

(今朝は俺が朝食を用意してみようかな)

いつも彼女が王泥喜の部屋に泊まる時は、全て名無しさんが用意してくれる。まぁ朝なので簡単な物しか作らないが、それならば王泥喜にも出来るかもしれないと思わせたらしい。まだ着替えてもいないのに腕捲りをしながら、昨晩彼女が買ってきた物を冷蔵庫から出してみる。

(鮭と卵とトウフか…)

これらから推測するに、焼き鮭、玉子焼き、トウフの味噌汁だろうか。
王泥喜は自分に渇を入れると、まずは鮭を焼くところから始めた。







「う、うわあぁ…」

もし何でも願いが叶うなら、ほんの数分前まで時を戻してほしい。5分、いや3分でいい。
目の前に広がる悲惨な情景を、王泥喜は直視できなかった。味噌汁は吹き溢れて煮詰まり、ぶくぶくと泡立った黄土色のものが、ぐちゃぐちゃのトウフと相まっておぞましいビジュアルとなっている。鮭は一見やたら痩せ細っただけの様に見えるが、裏は消し炭のように真っ黒だ。流石に玉子焼きは身の程をわきまえ無理と判断し、目玉焼きに転向したまでは良かったのだが、フライパンにおとした卵は油をひいたのに何故か酷くくっついてしまい、無理矢理フライ返しをねじ込んだところで後は想像つくだろう。

「どうしよう!」

自宅だというのに、王泥喜はどこかへ逃げ出したかった。こういう汚れは頑固だ。朝っぱらから名無しさんはお怒りになるかもしれない。
ダラダラと冷や汗をかいていると、カタン、と鳴った物音に、王泥喜は文字通り飛び上がった。

「おはよ、ホースケ君…朝ごはん作って…くれ、た?」

明らかな異臭に彼女の表情が曇っていく。最早観念するしかない。

「ごめん!」

王泥喜は思いっきり土下座した。勢い余って床にオデコをぶつけたが、痛みを感じる余裕は無い。
暫しの沈黙。そして溜め息が聞こえた。

「しょうがないなぁ、とりあえずこの残骸を処分しよっか」

「ハイ」

王泥喜が消し炭鮭とそぎおとした目玉無し焼きをごみ袋に入れる間に、彼女はブクブク味噌汁の鍋に水を張った。続いてフライパンにも水を張り、洗剤を流し込んでいる。

「とりあえずこのまま置いといて、夜洗いましょ」

「ハイ」

うーん、と伸びをする彼女を横目で窺う。

(疲労が顔に表れてるな…)

朝からいらぬ気苦労をさせてしまい、王泥喜は大きく肩を落とした。

「じゃ、今日はどっかでモーニング食べてこうね」

「うん」

気の抜けた相槌に名無しさんは目を丸くした。

「そんなにしょげないの、ね?」

「うん、ごめん」

ちょっと彼女を喜ばせたかっただけなのに、こんな凄惨な朝にしてしまうとは、王泥喜は思いもしなかった。しかも名無しさんには子供を宥める様な気遣いをされてしまうし、イロイロとへこんでしまうのも無理はない。

「ホースケ君、ありがと。私が疲れてたから気遣ってくれたんでしょ。すごく嬉しいよ?だからそんなにしょんぼりしないで」

(慰められると余計へこむな)

マトモに目を見れず、ふらふらとテーブルの前まで行くと、糸が切れたように座り込んだ。すると名無しさんが後ろから抱きついてくる。

「ごめんね、昨日ちっとも構ってあげられなかったね」

「そんなのはいいんだ、名無しさんだって疲れてたし」

「うん、でも私ホースケ君といると元気になれるよ?だけど肝心のキミがしょげっちゃうと、私もツライな」

(これじゃホントに子供扱いだ)

王泥喜は気持ちを切り替えようと思いっきり息を吸い込んだ。

「王泥喜法介は大丈夫です!」

「きゃああ」

急な大音量に名無しさんは引っくり返った。王泥喜は慌てて彼女の両手を引いて起こしてやる。

「ご、ごめんつい」

「い、いいけど、出来れば私の鼓膜も労ってね?」

「気をツケマス」

目を見合わせ、同時に笑った。

「それじゃモーニングと、ついでに今夜のディナーはホースケ君の奢りで決まりね」

「お、お手柔らかにお願いします」

王泥喜は、どうやら昼休みに銀行へ駆け込むことになりそうだ、と観念する他なかった。





2015,10,8

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