G dream

□山と里
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「やっぱこっちでしょ」

「いや、フツーこっちだって」

激安量販店のお菓子売り場で、若い二人の男女が議論している。始めはどれにしようか、と穏やかにアレコレ手にし、和やかに会話をしていた。どこでも見かけるカップルだ。だが1つの菓子の話題になると、二人の雰囲気は徐々に雲行きを悪くしていった。

「こっちの方が歯応えがあって美味しいんだよ!」

「ううん、こっちの方がチョコも生地もしっとりして美味しいんだってば!」

話は平行線である。どちらも譲れない何かがあるのか、睨み合うところまで険悪になってしまったようだ。
通りすぎる別の客も、二人の前に山積みにされた特売の菓子を見て、話の内容が読めたと言わんばかりに去っていく。クダラナイ、と露骨に鬱陶しがる者もいれば、納得の色を成して去る者もいる。

「もういい!私あっち見てくる」

そう言った彼女らしき女性は、買い物カゴを彼氏に押し付けて店内を早足で歩いていった。

「あ!待ってよ」

余程腹に据えかねたのか、彼女の姿はあっという間に消えてしまった。元々店内の商品が雑多に陳列されているせいもあるのだが。

(そんなに怒らなくてもイイじゃないか)

頬を膨らませながら王泥喜は腕を組んだ。
事の発端は成歩堂に借りた(押し付けられた)ビデオだった。特撮モノで、友人に借りた物を又貸ししてきたのだ。別段興味も無かったのでテキトーに返却しようと思っていたのだが、恋人の名無しさんが王泥喜の部屋で、うず高く積まれたそのビデオに興味を示した。まぁカノジョが見たいと言うなら、王泥喜に断る理由は無い。
長丁場になりそうだから、おやつを買いに行こう!という話になった。わざわざ道中で何を買おうか、二人で簡単に計画も立ててきた。
まずポテチはコンソメにするか青のりにするか討論した。この後に続く陣営(注/菓子)も踏まえ、ここは青のりで決着がついた。ポテチを引き立てる援軍には、モチロン炭酸飲料が必要だろう。コーラにするかサイダーにするかでもまた議論が為された。個人的にはコーラ推しだが彼女が譲らなかった。クッキーも食べたいと言うのだ。それなら茶類を用意すれば良いようなものだが、今日は炭酸と頑なに決めているらしい。コーラでは甘過ぎると却下されてしまった。ちょっとカワキモノも欲しいね、と話題になり、サキイカでも買えばいいか。と滞りなく討論が進む中、最後の難関、チョコ菓子の議論が始まるところで店に到着した。
チョコは実に種類が豊富である。
ただの板チョコだけでミルクからビターホワイト、最早王道のイチゴ、そして最近オレンジやマンゴー、抹茶等々、実にカラーも充実している。そこに具有りの商品も追加させると果てしない世界だ。
そして板チョコに負けず劣らず種類が豊富なのがチョコ菓子だ。
クッキーやケーキ、挙げ句の果てにポテチまで、チョコレートのポテンシャルは底が見えない。
案の定、チョコ菓子売り場は実に溢れんばかりの商品で埋め尽くされていた。この商品棚の裏側もチョコ菓子である。輸入品まで並べられ、最早小宇宙だ。
こうも沢山種類があると、腰が引ける者もいるだろう。二人はまさにそれだ。そうなると、人は安心を求めるものである。商品棚とは別に、通路側に山積みにされた菓子を見て、二人は辿り着くべく所へ到着したと思った。だがその菓子は、世間でも二大派閥に別れる大物だった。
皮肉なことに、二人はそれぞれ別の派閥の菓子を手にした。その瞬間、二人はこの後の展開を予見していたのかもしれない。
頭を冷やそうと、王泥喜は店内をさ迷っていた。そして思う。

(ナニやってんだ俺は)

菓子くらい彼女に合わせればいいだけじゃないか。それなのに、あの菓子の前ではナゼかそれが出来なかった。なんともミットモナイ自分の姿を思いだし、王泥喜はひどく項垂れた。
彼女に謝りに行こう、と心に決めたとき、王泥喜の目にあるものが飛び込んできた。








王泥喜は広い店内を殆ど駆け足で歩いた。早く彼女に会いたかった。
広いとはいえ所詮一個の建築物の中である。目的の姿はすぐに見つけられた。名無しさんはこれまた大量に積まれたインスタント食品の前であれこれ手にし、見比べている。

「名無しさん」

「あ、オドロキ君!夕飯どうしよう?」

さっきの険悪な雰囲気などまるで無かったかの様な態度だ。それもそのはず、所詮はただのお菓子である。

「ピザとるのもいいかなーと思ったんだけど、安上がりに手抜きしちゃう?」

カップ麺をえい、と付き出してくる。その様子が可愛くて、頬の筋肉が自然と弛んだ。

「俺味噌ラーメンがいいな」

「ホント好きだね、味噌…」

少々呆れ顔の彼女と目を見合わせ、照れるように笑った。
カップ麺を2つ、王泥喜の持つカゴにいれようとした時、名無しさんはあることに気が付いた。

「あれ、2つとも持ってきたの?」

えへへ、と照れ笑いをしながら、先程見つけた菓子を彼女に差し出した。

「見切り品のカゴに入ってたんだ。半額だから2つ買ってもイイデスカ?」

わざとらしく畏まってお伺いすると、名無しさんは堪えきれんと言わんばかりに吹き出した。

「半額じゃしょうがないわね、買ってもイイデスよ?」

「やったー!」

「それじゃあコーラの小さいのも買ってあげます」

「ホント?名無しさん最高!」

彼女のカワイイお許しを得て、王泥喜は名無しさんの手を取り、コーラの待つドリンク売場へと向かうのだった。





きのことタケノコ

あなたはどちら派?

2015,9,26

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