G dream

□モドカシくてゴメンナサイ
1ページ/3ページ



王泥喜はベッドの上でボンヤリ天井を眺めていた。目は虚ろで生気を感じられない。憔悴しているといっていい。

(…返事がない…)

昨晩名無しさんにメールを送った。

『明日は休みです。何時でもかまわないから会えないかな』

それが翌日の午後を回っても返事がない。いつもならこんなに待たされることはない。生死を案じてしまうレベルで心配する状況なのだが、王泥喜は別の不安要素も抱えていた。

(盛大にスレ違ってる気がする…)

彼女の生命の安否を除けば、最も恐るべき要素の1つだ。
実はもう一月近く会っていない。初めは王泥喜が多忙となって会えなかった。久しぶりに殺人事件の裁判を受け持ったのだ。連絡こそいれていたが、会うのはお互い避けていた。職務を終えて家に帰っても、資料を整えたりなんだりと忙しいし、彼女がいたらそれはそれで嬉しいけど、側にいる恋人をほったらかす事も出来なければ、器用に彼女との時間を大切にしながら裁判の準備をする自信も無かった。彼女はそれを理解してくれていて、毎日ささやかな応援メールをくれた。そこまではいい。
やっと裁判が終わりをむかえ、さぁデートしよう!と思えば今度は彼女が多忙となった。データ関連の職に就いている恋人は、バグが見つかったり急なデータ収集の仕事が舞い込んだりと、激務に見舞われているらしい。
それでも始めは連絡してくれた。
帰りが何時になるかわからない、終電を逃したら社に泊まる、次の休みは友人のケッコン式だから無理、等々。その都度理由を添えて、申し訳なそうなお詫びの言葉も毎回あった。それが段々返信のペースが遅くなった。当日中の返信が翌日の朝にかわり、翌朝の返信が遂には不規則になってしまった。
王泥喜は苛立っていた。今まで名無しさんの事でこんな思いはしたことが無い。不安と焦燥も相まって叫びたい衝動に駆られた。

(このままじゃ駄目だ)

けっして豊富ではない彼のレンアイ経験でも、自然消滅の気配はイヤでも感じられた。だがそんなもに甘んじるほど王泥喜も愚かでない。

『今日どうしても会いたいです。名無しさんのうちに行きます』

《何時でもかまわないから》という文面に、昨夜のメールよりも確固たる意志を込めて送った。
愛用のジャケットに袖を通すと、財布と携帯をポケットにねじ込む。王泥喜は自分に活を入れると、テーブルに投げ出された鍵を手に部屋を出た。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ