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□おひさま紙風船
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ぽむぽむぽむぽむ
白くて丸いその道具で、先程から何度もぽむぽむされているのは薬研藤四郎。
大事なことなので言っておくが、薬研は決して、手入れ部屋に行くような傷は負っていない。
すこぶる快調、実に元気。
疲労アイコンもにっこりマーク。
なのだが、
ぽむぽむぽむぽむ
ぽむぽむぽむぽむ
ぽむぽむぽむぽむ
ぽむぽむぽ
「大将、いつまでやってるつもりだ」
「ぽむぽむ!」
痺れを切らしてそう聞くも、嗚呼何と言うことだ。
ぽむぽむのやり過ぎで、大将の言葉までぽむぽむになってしまいやがる。
何が嬉しいのかあびはニコニコと、話しかけられて中断したぽむぽむを、再度始めた。
最近になって、大将はこのぽむぽむのやり方を覚えたらしい。
この間まで、無傷無敗の戦績で戦場を渡り歩いていたが、ついに短刀の1人が軽傷を負ってしまい、それを区切りに傷を負う者が増えてきた。
それでやむなくあびに治癒してもらわなければいけなくなり、今まで使われていなかった手入れ部屋の戸を開けたのだが。
そこで初めてこのぽむぽむを手にしたあびは、それでも最初の方は「いたい?いたい?」と、たかが擦り傷に半泣きになり、それはもう必死でぽむぽむしてたのだが、思いの外ぽむぽむするのが楽しかったらしい。
「たろちゃんぽむぽむやーらして!」
と、あびがお願いし、それをあの図体のデカい刀が快く受けてしまったのが始まりだった。
あっちでぽむぽむ、こっちでもぽむぽむ。
無傷の刀にぽむぽむさせろと迫り、気の済むまでぽむぽむするあび。
一度太郎太刀が無意味なぽむぽむを受けてしまった手前、ただでさえ太郎太刀と比べ差のあるあびの好き好きスイッチを、これ以上押されてたまるかと、躍起になる者多数。
特に薬研はそれほど差は開いていないが、元からあび派だった為に、まぁなんと言うか、甘やかすだけ甘やかしたいって言うのが本心だった。
「いたいいたいとんでけー」
「おー、飛んでった飛んでった。すげぇな大将」
「ぽむぽむー」
もう良いよ可愛いから。
とことんノってやるから、好きなだけやりやがれ。
ぽむぽむっ!と言う度に、えへぇと笑うあびを間近で見られるなら、減るもんは無いだろう。うん。
と、こんな感じで今までのぽむぽむ犠牲者達は絆されていた。
手入れ方法に味を占めたあびなのだが、別に本気の手入れが好きかと言われれば、それは真逆らしい。
そんなに手入れしたいならと、本丸の阿呆共が擦り傷程度の傷をわざと負いあびのところへ向かえば、待っていたのは泣きじゃくるあびだった。
「やだよぅやだよぅ」
と大泣きしながらぽむぽむされれば、確かに大切にされている感は半端無いが、それよりもあびを泣かせてしまった事実が重い。
あびは殊更、刀達が傷付くのを嫌うらしかった。
その後、手入れはしたいが怪我はしてほしくないあびの為、意地でも怪我をするな。
軽傷どころか刀装剥がれたら即帰れ、と言う暗黙の了解が建てられたのは言うまでもない。
とんでもない白すぎる本丸である。
「ぽむぽむ!!!!」
「なぁ大将、」
「なぁに?」
嬉しそうにぽむぽむを続けるあびに、薬研は語りかけた。
「楽しいか?」
そう問えば、
「うん!」
と、元気な声と笑みが帰ってくる。
「なら良いぜ」
「うん?」
ここのところ、笑う率が高くなって、泣く率が今までより大幅に減ったあびに、薬研は少なからず安堵していた。
だいたいいつも同じ奴のところへ泣きに行っていたのだが、時々薬研のところにも来ては、ぐしぐし泣きじゃくっていたから。
少しでもあびが泣かなければと、兄弟達にあびに手を貸してやってくれと懇願していた時期がなんだかもう既に懐かしいと思えるほどに、今あびは楽しそうだ。
「やげちゃん」
「おー、なんだ大将」
「ありがとー!」
「どう致しまして」
一度首をこてんと倒して笑ったあびに、薬研も同じように笑い返す。
「んで、まだ飽きねーのか」
「うん!まだやりたい!」
「へーいへい」
これからしばらくも続くあびのぽむぽむは、後に[無傷手入れ騒動]と呼ばれるまでに、本丸中にぽむぽむされたことの無い無傷の刀どころか物すらないほど拡大していったりした。