□おひさま紙風船
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クリクリ光るまん丸お目目と、同じく光る小さめの目。

ゆっくり息を吸ったあびは、

「なーきぎつねでございますー」

いつもより高めの声でそう言った。

おうどうだ、噛まなかったぞ、噛まないで全部言えたぞ。

とでも言うように、ドヤ顔のあびがキラキラした視線を向けるのは鳴狐、の肩に乗っかるお付きの狐。

狐が話すだけでも面白いのにその声がまた特徴的なもんだったから、あび、大興奮。

何度も何度も真似をしては、嬉しそうにきゃいきゃい喜んでいた。

「あ、あのーあびどの?」

「やあやあなんでございますかー」

「もしかしなくとも、それはわたくしの真似でございますよね」

「そーでございますー」

何かが気に入ったのだろう。

話し言葉全てを、お付きの狐風に話そうとするあび。

肩と目線の下にて、意味不明なやり取りが繰り広げられていると言うのに、挟まれた鳴狐本体は、今のところ一言も発っしていないから驚きである。

それどころか、我知らぬ存ぜぬと決め込むつもりなのか、あびの方も、お付きの狐の方も見ないで、庭の木をぼけーっと眺めていた。

どうなっているんだろうとも思うが、あまり深くは突っ込まないでおこう。

「なーきぎつねでございますー」

本当に何が楽しいのか分からないが、子供だから仕方ない、と思うことにした。

今日は出陣予定は無いし、やる事も粗方済ませてしまっているから、何をしようかとフラフラしていたところを、前々からこのお付きの狐を触りたいと狙っていたこのちびっ子に捕まったのだが。

モフる以前に声に反応されるとは、思ってもみなかった。

「あびどの、わたくしの真似をしてそんなにも楽しいのでございますか?」

「たのしー、あ、たのしーでございますー!」

ニコニコ笑うあびに、まぁ、好きなだけやらせといてやるかと思ってしまうあたり、おや、これはあび派の気配があるぞこれ。

と思っていれば、いつの間にか黙ったあびが、今度はなんだかまたじーっとこちらを凝視している。

「な、なんでございますかあびどの」

「きつね」

ビシッと差された指の先、狐の形をした鳴狐の右手。

あびはそれを、じっと見ていた。

「こ、こー?」

同じようにしようにも、なんでか出来ない。

「あびどの、それはただの握り拳でございますよ」

「あ、じゃ、こー?」

「それでは狐ではなく、どちらかと言えばパグでございます」

「むつかしいー」と唸るあびの目の前に伸びる手。

「なきちゃんなぁに?」

一度掌をパーの形に戻してから、またゆっくりと狐の形にする。

それを何度か繰り返せば、

「こ?」

「そうです!それでございますよ」

不恰好ながら、あびは狐の形を作ることに成功した。

「でーきたぁ!」

今日一番の笑顔を返すあびに、マスクの下でほんの少し見えた鳴狐の口角が上がる。

「なーきぎつねでございますー」

早速作った狐で、またお付きの狐の真似を始めたあびは、

「なきちゃんおそろいー」

と無邪気に笑って手で作られた狐を鳴狐に向けた。

「なきぎつねでございますー」

「お上手ですよ、あびどの」

「えへへー」

嬉しいと、「きゃあ〜」とはしゃぐあびの額に、鳴狐の右手の狐がコツンと当たる。

その手を見ようとあびの視線は上に注がれて、丁度鳴狐の目とあびの目が合った。

「鳴狐で、ございます」

「ほっ!」

今まで聞いていた甲高い声とは別の、少し低めの声があびの耳に届く。

それを嬉しそうに受けたあびは、

「あびでございます」

と、今度はお付きの狐の真似をしていない、いつも通りのあびの声で返した。

少しだけ離れた右手の狐に、あびの不恰好狐が擦り寄る。

合わせるように動く右手の狐に、あびは終始笑顔のまま、

「ん!」

右手の狐の、丁度口元にあたる部分に口付けた。

「ちゅー」

実にほんわかした光景だが、

「(誰だあびちゃんにあんなこと教えたの)」

[見守り隊]と称し、偶々通り掛かり、その後隠れて盗み見ていた光忠の、心中は穏やかどころの騒ぎじゃない。

あれか?

誰とは言わないが、金色の鎧のアイツか?

それとも柄まで通しちゃう兄貴なアイツか、もしくは、何事も雅主義のアイツか?

或いは、この間あびに餌付けをしていた馴れ合うつもりがない(あびは除外)のアイツか、まさかそう言うことをしそうにもないが、あび一番の信頼を勝ち得ている図体のデカいアイツか。

「(みんな疑わしいよ!!!!)」

あびに色恋、ましては口付けなど早すぎる。

地味に燃える光忠は、あれ以来地味にあびへの庇護欲を増幅させていた。

ところでお前、毎度毎度偶々率高いなと、誰も言う人がいない。
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