□おひさま紙風船
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日の光が当たるのどかな午後。

畳の上でごろごろ寛いでいたあびの、すぐ真横に居た大和守安定が、

「あび、僕のこと好き?」

と聞けば、

「すきー」

と、へにゃへにゃした顔に実に相応しいへにゃへにゃした声が返ってきた。

「好きってどのくらい?」

「んーとねぇ……いっぱーいたぁくさんっっ!!」

「このくらい」だと短い両腕を精一杯伸ばしているあびを撫でてやれば、嬉しそうに腕にじゃれついてくる。

そうしていつも通り日向ぼっこが開始するかと思われたが、

「何それ、こいつだけ狡くない?」

「お?おーきよちゃん!」

いつの間にか安定の反対側に加州清光が、不満げな顔を隠そうともせずに鎮座していた。

「何の用?邪魔しないでくれない?」

折角あびが自分の所に来てくれたのだから、空気を読めと言った安定の視線を左手で華麗に払い除けた清光は、

「あび、俺は?俺のこと好き?」

と、あびに聞く。

「好きな訳ないでしょ。の〇太がジャ〇アン好きになると思う?」

具体的な例を出して嫌味を言った安定だったが、それに反して、

「うん、きよちゃんすき!」

「ほら見ろ……って、えー好きなの?」

「すき!!」

大きく頷いて「好き」とあびが返してしまったから、ドヤ顔が出来ない。

猫型ロボットの救済は必要ないらしい。

「ねぇじゃあさ、俺のことこんくらい好き?」

「すき」

「そんじゃ、こんくらいは?」

「すき!」

「じゃあ、こんくらい?」

「すきーきよちゃんいっぱいすき」

清光が両手で幅を少しずつ広げながら問えば、こくこくとその都度頷いて同意してくれるあびを、

「うりゃ、」

「ほっ!きゃあ〜」

隣に寝転んでそのまま抱きしめれば、一瞬驚いてから、すぐにはしゃぎ始めた。

「ねぇあび撫でて」

「なでなで〜」

「もっと」

自分のお願い通り、小さい手で撫でてくるあびが愛しくて顔が綻ぶ。

が、

「あび、僕は?僕のことは撫でてくれないの?」

先程の仕返しか、安定があびの注意を自分に向かせてしまった。

「やっちゃんもなでなでする〜」

「へへ」

寝た状態のあびに合わせるように身を屈ませた安定に、両手を伸ばしたあび。

その体制は撫でるというより、抱きつこうとしていると言った方が正しいのかもしれないが、どちらにしても破顔した安定の顔から、嬉しいのだけは間違いなかった。

「横から入んないでくれる?」

「お前が先に邪魔して来たんでしょ」

互いに互いがあびに構われるのが気に入らないので、邪魔のし合いをすれば当然争いが始まる。

昔は同じ主人の元に居た通しなのに、何故こうも折り合いが悪いのだろうか。

「あびはお前なんかより俺の方が好きだから!!」

「はっ、勘違いも甚だしいね。僕の方が好きに決まってるでしょ!!」

「勘違いはお前じゃん?うぬぼれんのも大概に、」

あびを巡っていがみ合い始めた二人に対し、

「おーしーまいっっ!!!!」

小さい掌をぱちんと鳴らして合掌のポーズを取ったあびに、ピタッと黙った二振り。

「あのね、あび、やっちゃんもきよちゃんもだいすきなの!けんかしちゃだめなの!やなの!」

若干怒っているのか、頬を膨らませたあびがぷりぷりそう宣言すれば、それを間近で見た両者は、

「「はぁ〜……」」

深い溜め息を付いた後、元からあびの真似をして寝ている清光と同じように、安定も横になった。

「何それ反則」

「あびすきだもん。うそつかないもん」

「知ってるよ」

ぷくっと膨らんだままの頬を、安定がつんつん突っつけば、ぷしゅっと口の中の空気が逃げる。

「ねー可愛がってほしい人が俺より可愛い時ってどーすればいいと思う?」

反対側からそう聞いてきた清光に、にやっと笑った安定。

そっと口を開いて、

「そんなの選択は一つしかないよ」

「あ、やっぱり?」

「「気が済むまで可愛がる!!」」

綺麗に揃った声に、イマイチ状況が把握出来ずにキョトンとしてしまったあびに向かって、両側から二人が抱き付けば、吃驚して丸まっていたあびの目も、すぐに弓を描いた。
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