□おひさま紙風船
28ページ/33ページ


あびの姿が見えなくなって数分しばらくした後、いつも通りに仕事を始めたように見えた面々だったが、それはあくまで[見ため]だけだった。

とりあえず起こったトラブルを纏めると、

・出陣部隊が出陣したふりをして、実際は本丸から出たすぐの所で座り込んでいじけていた。

・遠征部隊が隙を見てあびと同じ場所へ行こうとした(与えられた任務は真逆)。

・遊び相手の居ない短刀達が、とにかく泣くか「どうしていないんですか?あるじさまはどこですか?どこにいるのですか?」の質問と言う名の攻撃三昧。

・無意味に団子を買い占めて何故か縁側に供える大倶利伽羅。

・近侍(太郎太刀)が「あ、……」と言いながらうっかりミス連発。

・唯一マトモだと信じていた光忠は、昼飯だと言って笑顔で炊飯器ダイレクトとカニカマ(未開封)を置いてきた。(目は笑っていなかった)。

等々、こいつら裏で作戦会議でもしていたんじゃないかと思えるほど次々と問題を起こされて、今回不本意にも皆を纏める役に抜擢されてしまった薬研は、ただただため息しか吐けずにいる。

「お祭りみたいだね〜」

「嗚呼、乱か」

如何せん各々やることが阿呆過ぎて付いていけないらしかった乱が苦笑いでやって来た。

「雰囲気的には葬式だと思うぜ」

「そうかも……」

目にあびと言う名の光を無くした面々は、機械的にとんでもないことをやらかすばかりで、パッと見それは少し恐かったり何だったりする。

「でも、やっぱり主さん居ないとつまんないなぁ」

「嗚呼、そうだな」

「ね、迎えに行っちゃダメ?」

良い提案を思い付いたとでも考えていそうな顔で、若干前のめりになりながら聞いてきた乱に対し、

「そんなことしたら全員着いて来るぜ」

そう言えば「うっわぁ……」と想像出来たのか苦笑いを浮かべた。

「秘密……では行けないよね。玄関に小狐さん居るし」

「は?」

物凄いナチュラルにさらっと、置物が置いてあるかの如く言葉をこぼした乱に、意味が分からないと言った旨の視線を送れば、

「あれ、知らないの?主さんが行っちゃってからずっと玄関で正座して待ってるよ?」

「おいおいまじか……」

先程から白と黄色のでかいのが全く姿を現さないと思っていたが、まさかそこに居たのか。

もう既に数時間経ってるぞ。

「なんかね、

『如何してこの小狐丸を連れて行ってくださらないぬし様……まさか私に飽いてしまったのですか!!』

ってさめざめと言ってたから、」

「連れてくも何も小狐の旦那はじゃんけんで初戦敗退してたじゃねーか」

ルールがよく分からずとりあえずパーしか出せない小狐丸と、それを見越して堂々とチョキを出したのは何を隠そう、

「相手、僕だったしね」

乱藤四郎その刀。

普段はそれでも優しい方なのだが、今回はあの太郎太刀ですら本気になった勝負故か、慈悲の[じ]の字も存在しなかったようだ。

「それで、とりあえず青江さんに斬ってもらうように頼んできたよ」

「何でまた青江の旦那に?」

「んー、なんかジメってしてて幽霊っぽかったから、ほら?青江さんって幽霊斬ったことあるって言って主さん恐がらせてたことあるでしょ?」

「嗚呼、」

あの時は大変だった。

たまたま夜戦で太郎太刀が居なくて、しかもその頃はまだ和解したばかりで、どことなくぎこちない空気の中、やらかしたのだ、あの刀は。

存分に恐がらせられたあびは、その後ずっとどんな物音にも怯えて、太郎太刀が帰ってくるまで大倶利伽羅から離れなかった。

途中から大倶利伽羅の胡座の上に座りつつ、右手は薬研の袖を握って離さないと言う荒業にまで出て、しかもどちらかが居なくなることをとにかく嫌がる嫌がる。

仕方がないのであびの右側に薬研、左側に大倶利伽羅と言う妙な組み合わせで、川の字で三人仲良く寝たのは良いのか悪いのか思い出だったりする。

「だけどね、青江さんも小狐さんの隣で同じようにジメってし始めちゃって、」

「もうお手上げ」と肩をすくめた乱に盛大な溜め息をついた薬研は、

「……玄関行くぜ」

「はーい」

やれやれと重い腰を上げたのだった。



日が暮れる頃には、必要最低限のこと以外、誰も話さなくなっていた。

しんと静まり返った本丸内で、

「……ら……って、……みな」

「……た……ちゃ…」

と微かに響いた声に、ばっと振り返った太郎太刀が珍しく走って行った。

本丸の揺れ、半端ない。

「はいはいもう少しで着くよー、ほぉら着いた!あっという間だったねぇ、ただいましようねぇ」

「たろちゃぁぁぁぁぁ」

しゃっくり上げたあびの声と、

「あび!!!!」

「うぉっっ?!びっくりしたってちょっとちょっとあび!!危ないからちゃんと下ろしてやるからじっとしてな!!ぴっ!!」

「うぇぇ〜ぴ…ぃ〜………」

太郎、次郎兄弟の声が聞こえた。

姿を見なくてもだいたい何が起こっているのか手に取るように分かる。

「ぴっ???」

「たぶんあれだよ、気を付け。主さん[ぴっ]って言うと「ぴっ」って返してじっとするから」

「そいつぁ初耳だぜ」

疑問に首を傾けた薬研に、乱が説明を返した。

「今度言ってみればいいよ」と笑う乱は、それからゆっくり伸びを一つし、

「んっ…と、僕も行こー。ほら、みんな行かないと出遅れちゃうよ?」

と言って玄関まで掛けて行く。

それを区切りに、バタバタと慌てて動き出した皆の「おかえり」と言う声と、その声に埋もれていくあびの「ただいまぁぁぁ」を聞いてから、最後まで大広間に残っていた薬研は、

「やれやれ」

にぃっと笑ってから立ち上がったのだった。



※備中審神者(オリキャラのようなもの)一人歩きしています。注意。











余談。

「帰りましたー」

超絶棒読みでそう告げた審神者の声に、奥からやって来た光忠は主を出迎える言葉を発した。

「お疲れ、藤克くん。どうだった?」

いつも通りどことなく冷めた目をしたこの主は、齢九歳と言うのだから鶴丸も驚きだ。

「別に何も変わりなくー……嗚呼、でも、」

履き物を脱いで、本丸の中に入ろうとした藤克は、1度ピタリと止まってから、

「[雛]が来ました。小さい雛鳥が」

少し薄く笑いながらそう告げる。

「雛?嗚呼、御上が言っている薩摩の、」

審神者会議の少し前に、御上が「雛雛」やけに煩く言っており、それに対して超絶面倒くさそうな顔をした藤克に、後で少し当たられたから覚えていた。

本当、この主小さいのに怖い。

「それっすね。あ、光忠サン、風呂に入りたいので沸かしてください」

「もう沸かしてあるよ」

「そっすか」

スタスタと廊下を歩いて行った主と、玄関に置いて行かれ、疲弊した顔で脱力する物吉に、

「お疲れ様」

と労いの声をかければ、

「うちの主様はなんであんなにも大人びているのでしょうか」

と言う嘆きが返ってきた。

「さ、さぁ?どうしてだろうね」

苦笑いを浮かべた備中の燭台切光忠の、苦労は今日も果てしない。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ