□おひさま紙風船
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※作中、オリキャラのようなものが一人歩きしている文が多く出ます。
ご注意ください。






先程から嗚咽混じりにしゃっくりあげながら自分の首にしがみつく者の背中を、次郎太刀はぽんぽんと数回叩いた。

「頼みましたよ」

「分かってるって」

至極心配そうな顔をした自分の兄に、安心しろと頷く。

「あび、そろそろ出発するから、兄貴と皆に行ってきますしな」

「うぇぇぇたろちゃぁぁぁ」

なかなか太郎太刀離れが出来ないあびは、一応気を使って[皆]と言ったのにも関わらず、太郎太刀を呼んだ。

普段は全員に懐いているのだが、いっぱいいっぱいになると太郎太刀を呼ぶのは、もうこれ情とか云々じゃなくて癖に近いと思う。

「やはり、私が共に行った方が……」

不安気な表情の兄は、あびへと伸ばしたのであろう、中途半端な位置に右手を上げたままそう提案する。

言わなくても、「共に居たい」と言う思いが丸分かりだ。

「だめだめ。兄貴じゃんけん負けたじゃん?ここで兄貴が行ったら、あの壮絶な戦いはなんだって話になっちゃうから」

「ですが、」

あびから離れたくないのは、何も太郎太刀のみとは限らない。

その証拠に柱の影から、じゃんけん敗者共の恨めしそうな羨ましそうな視線をいくつも感じるのだから。

「軽い休暇だと思ってくつろぎなさいな。それじゃ、行ってくるから、ほら、あび何て言うの?」

そりゃお前はこの先数時間後もあびと居られるから、休暇でも何でもなるけど、こちとら一日、あびの居ない時間を過ごす訳でして。

正直、息抜きなんか出来ない。

的な不満気な雰囲気をバッサリ無視した次郎太刀は、さっさかあびに挨拶を求めてしまった。

「……………い……いってきまし」

「おう!よく出来たねぇ、いい子いい子」

ギュッと次郎太刀に抱き締められたあびだが、その実全然苦しくなどなく、それは次郎太刀がきちんとあびを気遣っていたから。

普段はこっちの都合お構い無しに喋り倒すだけ倒すのに、今日はあびの不安も心細さも全部察しているのだろうか。

次郎太刀の肩からぴょこんと顔だけ覗かせたあびが、じっとこちらを見続ける姿が見えなくなるまで、同じようにじっと見つめていた。



出発してから暫く、すんすん泣いていたあびだったが、途中休憩と称して、あび用にと光忠が持たせた金平糖を食べさせれば、涙交じりではあるが、すぐにへらっと笑顔が戻って来た。

そうしてあびを抱えて歩き続ければ、目的の場所に着く。

「こりゃあ、たまげたねぇ」

外観は普通の民家なのに、一歩敷地内に足を踏み入れた途端、周りの景色が変わった。

とんでもなく広い座敷の扉の向こう側で、幾人もの知らない気が揃う。

「人間の気配だらけだねぇ」

「……」

「大丈夫、何の為にアタシが来たと思ってるの。アンタだけはどんなことしても守るから安心しな。ね、あび」

「…………うん」

「怖くない怖くない」

今日何度目かの小さい背中を優しく叩く行為に、あびが頷いた。

「いい?降ろすからね。アタシはずっとあびの傍にいるから、何も心配しなくていいのよ」

「…………うん」

そっと降ろせば、尚も眉をへの字にして泣きそうな視線がやってくる。

「なんて顔してんのよ」

笑え、とあびの目線の高さになるようにしゃがみ込んで、頬をぐぃっと手で伸ばせば、少しだけはにかんだ顔が帰って来た。

と、その時、

「わっ!!」

「何これ?紙?」

あびの顔に一枚の紙がぽすっと張り付く。

これは、

「うえしゃん!!!!」

ばっと紙を取って、紙が来た方向へと顔を向ければ、いつも鏡越しに対面していた例のあの上司が片手をあげて立っていた。

「や、雛。あれ?次郎くん連れてきたの?てっきり太郎くん連れてくるとおもってたんだけど、」

「兄貴はじゃんけんに負けたから、留守番よ」

「ふーん、まぁいーや。おいで、雛」

手招きをする上司は、相も変わらず顔に紙をつけたまま。

実際に見ると、少し薄気味悪く思えてならないのはあびには言わないでおこう。

「うえしゃんひといっぱい?」

上さんに抱っこされたあびは、恐る恐るそう聞く。

「そうだよ。全国の審神者が集まってるからね」

「こぁい……」

「だいじょーぶ大丈夫。雛が一番最年少だけどね、同じくらいの年の子も居るから。男の子だけど」

そう笑いながら(恐らく)、沢山の人の気配のする扉を何の躊躇いもなく開けられた。

「御上!!!!あれほど本日は勝手な行動をくれぐれもくれぐれも!!なさらないでくださいと、このこんのすけ、お願い致しましたのに!!」

ちょこちょこと掛けてきたこんのすけが、開口一番上さんを叱れば、

「雛の気がしたから迎えに行ってたんだ。別に敷地内から出てないから、そう怒らない怒らない」

「御上!!!!」

のらりくらりとあしらってしまう。

「そんなことより、坊っちゃん何処に居る?雛が最後だからもう居る筈なんだけ……あ、居た」

室内を見回す上さんに対し、一人だけ露骨に視線を逸らした者が居た。

その姿を発見するや否や、その少年の元へあびを抱きあげたまま行ってしまう。

「こんにちは、坊っちゃん」

「これはこれは御上。本日はお日柄も良く、もう一度その呼び方しやがったらただじゃ済ましませんよ?」

物凄く冷めた目で御上に視線をやる少年に、内心絶句しているあびは、一言も話せないでただ成り行きを見守るしかない。

「わー相変わらず敬語なのに口悪い。雛、このクソが、じゃなくてこの子ね、備中国の審神者さん。雛の三つお兄さんだよ」

「藤克(とうかつ)です。宜しくね」

「今日は誰連れて来たの?」

「自動幸運発生道具、別名、物吉クン」

「主様、もう少し別の名前無かったんですか?」

「ないっす」

しれっと後ろに控えている物吉貞宗に言ってのけた藤克が、今迄の短い人生で出会ったことの無い種の人間過ぎて、あび、どうすればいいか分からない。

御上に抱えられながらオロオロしていれば、

「降ろしてあげてはどうですか?」

「あ、そうだね。丁度席空いてるし雛此処に座ろう。坊っちゃん、今日一日雛のお世話宜しくね」

「貴方が居なくなれば喜んで任せられましょう」

藤克の言葉により隣に降ろされたあびは、とりあえずぺこりとお辞儀をした。

「あび、です。よろしく、おねがします!」

「はい、ヨロシクお願いされます」

あびに合わせて頭を下げ返した藤克に、その光景を見ていた次郎太刀が、

「アンタ、本当に九歳?」

「うちの本丸の次郎サンにも同じ事言われました」

「でしょうねぇ」

「そろそろ近況報告会始まります。色々話すのはまた後でと言うことで、」

「う、は?、うん!」

「始まり」という単語にぴしっと背筋を伸ばしたあびに、隣でくすりと笑われる。

「アタシは後ろに居るから頑張んなさい」

「うん!!!!」

そっと小さく次郎太刀の着物の端を握ったあびの背中を、ぽんぽんと二回叩いた。

会議はまだ始まったばかり。
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