□おひさま紙風船
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今日は何して遊ぼうかと、あびがぽてぽて縁側を歩き丁度曲がり角を曲がる時、その事件は起こった。

「〜〜〜〜っっつつ!!!!!!」

声にならない叫び声は残念なことに本丸中には響き渡らず、腰を抜かしたあびが這いずりながら曲がり角からよたよたと逃げようと努力するも、悲鳴の原因は物言わずにじっとあびを見つめている。

「あ、主君?どうしました?」

たまたまやってきた秋田藤四郎があびの姿を発見すれば、その声を聞いて必死こいて秋田の側へ逃げようとするあびが何をそんなにも怖がっているのかが分からなかったが、

「あ、きちゃ、あぅあぅあぅあぁぁぁ」

「へ?はい?え?あっち?あっちを見れば良いんです……か……」

ぼろぼろ涙を流したあびが、精一杯右手を後ろの方に向け、最早パニックのあまり呂律の回っていない口で、指の先を見ろと仕切りに訴えるもんだから見てみた。

「え、…………」

丁度曲がり角の曲がる部分、ご丁寧にあびの目線辺りの高さに、ひょっとこが鎮座している。

正しくは、ひょっとこの面を被った誰かが座っているのだが、

「あれ!!あれ、ばって!!ばって!!!!」

両手を勢いよく広げたあび曰く、そのひょっとこはいきなり出てきたらしい。

そりゃ腰抜かしもするわ。

動かなくてもなんか怖いひょっとこ。

それが目の前にいきなり現れたのなら、まず子供は間違いなく泣く。

それは短刀である秋田も例外では無いようで、けれど自分があびを守らなければと、なんとか頑張ってあびの前に立ち塞がっていた。

「だ……誰か分かりませんが、主君を虐めるのは許しませんよ!」

秋田が戦ってやるぜ!と意気込んだものの、ゆらぁっと立ち上がったひょっとこが、徐ろに近付いて来たことにより、その意識が薄れそうになる。

「や、やぁ〜!!」

「うっわわわわわ」

ぎゅっとあびを抱き締めた秋田にひょっとこの手が伸ばされたところで、

「何してる」

「うげっ!」

ひょっとこの後ろから、大倶利伽羅が手刀を落とした。

「お、大倶利伽羅さん!!!!」

「くりちゃん!!!!」

ボロ泣きのあびと半泣きの秋田が、パァァと効果音のつきそうな目で大倶利伽羅を見つめる。

ちびっ子2人の救世主となった大倶利伽羅に倒され床に伏していたひょっとこは、

「いっててて」

と頭を抑えながら立ち上がった。

その拍子にひょっとこ面が外れ、

「うひゃっっ!!」

あびがまたその面でびっくりしたのだが、その下の顔を見て、

「………………だれ?」

また別の種の驚いた表情になる。

全身白ずくめのその刀を、悪いがあびは知らない。

キョトンとしていれば、大倶利伽羅が答えてくれた。

「拾った」

「ちょ、もっと説明の仕方があるだろうぜ」

「分かった。拾うつもりはなかったがいつの間にか居た」

「こりゃ驚きだねぇ」

「???」

とりあえず根本的な質問の回答はされていない。

それで一体誰なんだと言う視線を向ければ、こほんと一つ息を吐いた白ずくめの刀。

ひょっとこもあってか若干身構えたあびに、満面の笑みを浮かべた白ずくめはこう言った。

「鶴丸国永だ。俺みたいのが突然来て驚いたか?」

沈黙数秒。

同じタイミングで瞬きをしたあびと秋田。

次に口を開いたあびは、

「すっっっっごいびっくりした!!!!」

半ギレ基、半ぷんすかモードでびしっ!と指さした。

めちゃくちゃ驚いた。

凄い驚いた。

一瞬お化け出てきたかと思った。

とにかく驚いた。

主にひょっとこに。

と言うか概ねひょっとこのみに。

「挨拶がてら余興の一つでもしてやろうと思ってな」

「予想以上の反応くれて嬉しいぜ」とけらけら笑う白ずくめ、鶴丸にあびがぷくっと頬を膨らます。

「楽しくないです怖いです!!」

秋田の思わず出た抗議にぶんぶん頭を降るあびを、未だ守ろうとしているらしい秋田の手は離れていなかった。

「主君泣いちゃったんですよ!!」

半泣きの涙が引っ込んだ秋田が、少し怒りながら鶴丸に言えば、その言葉に大倶利伽羅が反応した。

「泣いた?」

「ええ」

この目で見たと、しっかりと頷いた秋田に、周りの空気が二三度落ちる。

「どう言うことか説明してもらおうか」

鶴丸の左肩にぽんと手をついた、何故か表情が暗くて見えない大倶利伽羅と、何故か引きつった笑みで冷や汗を浮かべる鶴丸。

「おおっと、なんだか知らねぇが後ろ振り返っちまったらダメな気ぃするぜ」

両手を上げ、さり気なくちびっ子二人に視線で助けを求めた鶴丸に、

「主君を泣かせた罰です!!」

僕は助けませんからね!と、秋田の無慈悲な言葉が届いた。

ちなみにその後、更に事の次第を聞いた各々に、成敗されまくった挙句に、本丸中を逃げ回る鶴丸の姿を見たとか見ないとか。

流石にあびの涙も引っ込んだ。
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