□おひさま紙風船
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※審神者が名前しか出てこない
オリキャラのようなものが一人歩きしているだけの文ですので、ご注意ください。















「ずっと疑問に思ってたんだけどさ、」

ポカポカ日差しの気持ちが良いお昼時、日向ぼっこの最中に眠ってしまったあびを眺めながら、加州清光は呟いた。

「あびってなんか、普通の子供より幼くない?」

少し前、遠征の時に見掛けたあびと同じくらいの年齢の童子を思い浮かべる。

時代も時代だが、それに比例しても何と言うか若干、

「幼いか?」

「幼いよ」

お前は他の兄弟達で慣れてるだけだろと、お茶受けの煎餅を齧る薬研に突っ込んだ。

「まぁ、別に良いだろ。大将は俺達以外と関わる機会が、そんなにねーからな。身なりもちっこいから分からねぇだろうよ」

「んーでもなんか引っかかるんだよねー…………アイツなら知ってるかな?」

多少嫌そうな顔をしながらも、思い付いた人物を問う。

「アイツ?」

「“上さん“」

日頃からあびが「うえしゃん!」と、若干慕っていなくもない審神者と言うより審神者を輩出する一族全体の上司。

「聞いてみるか?」

「うん」

通信手段はあびの部屋の鏡であることを知っている二振りは、思い立ったら即行動と、審神者の部屋に駆け込んだ。



「んで、やり方知ってんの?」

「知らねーなぁ。力でも流し込めばいいんじゃねぇか?」

「物理的に?」

「割れるだろ」

とりあえず何か映れ、繋がれと念じてみれば、割と呆気なく回り始める鏡の中。

「うっわ、単純」

ボソッと毒付いた清光の言葉は、その通り過ぎて否定出来なかった。

やがて映し出される上等な着物を羽織った男。

相も変わらずその顔には、白い紙がペタリと貼ってある。

「やぁ雛、息災かな……って、嗚呼なんだ君達ね、どうしたの?」

柔らかい雰囲気から一転して、清光と薬研を目にした男は、至極興味が無さそうな態度に変わった。

「不満そうだな」

「生憎と雛達みたいに、唯の道具相手に掛ける心は持ち合わせていないからねぇ」

「何それウザいんだけど」

「結構結構、君達にどう思われようが痛くも痒くも無いよ。所詮九十九神如きに、負ける気なんてしないし」

あびから聞いている優しい「上さん」とは違い過ぎる態度に、けれど実はそれを知っていた二振りは、眉間に皺を寄せただけで留める。

あびが来るもっと前から、この男とはそこそこに縁があった。

あびの姉と通信を交わしていた頃は、確かこれと同じ態度であびの姉に接していたはずだから、今のあびに対する態度はどうかと、初めに話を聞いた時に少なからず驚いたことをあびには話していない。

「で、何か用かなぁ?あ、先に言っとくけど君達の前の主様は未だ行方知れず。今更雛を認めないって話するつもりなら、こっちもそれなりに対処するつもりだから宜しくね、加州清光くん」

「お生憎様。もうそんなこと思ってないから」

「そう、ならさっさと用件言ってよ」

何処から取り出したのか、左手に持った扇子を弄る男は、ぶっきらぼうにそう告げた。

不満はあるが今はそんなことよりもあびのことを優先しようと耐える。

「あのさ、あびって他の子供より幼いよね?」

「そうかな、至って普通の子だよ」

扇子を開いたり畳んだり、同じ動作を何度もしていた男だったが、

「嘘だね。アンタなら理由知ってるんでしょ?さっさと吐きなよ」

キッとキツくなった清光の視線に、何故かにぃっと笑った。

「それを知ってどうするつもりなのさ?」

「別に、ただ知りたいだけ」

「大将に何かあったとしたら、この先俺達も力になれるかと思ってな」

状況を眺めていた薬研が口を開けば、鏡の主はおかしそうに笑う。

「あーはははっっ、素直なのはいーけどねぇ、こう言うやり取りするなら薬研くんみたいに頭の良い言い方すべきだよ」

「まぁ、丁度暇だったし答えられる範囲内で教えてあげるよ」と、扇子パチンと閉じた男は、胡座を掻き直してから再び口を開いた。

「雛の家が代々審神者とか、そう言った神職の者を育てている家系だってことは知っているよね」

「嗚呼」

「だからかなぁ、あの一族は神通力の高さを特に大切にするんだよ」

まるで他人事とでも言うように、淡々と話し始めた内容に、なんとなく畏まって聞くことにした薬研と清光。

「そう言う点ではね、雛の姉、君達の前の主は特に秀でていた。力だけならかなり上の方まで行けたんじゃないかなぁ……。其れこそ、」

上の出来が良ければ下にも期待してしまうのが人間と言うもので、

「次に生まれた雛が「出来損ない」って、一族全体から失望されちゃうくらいにはね」

力の強い姉の所為で不自然に上がってしまった平均値の中、過剰な期待を押し付けられた分、力が無いと分かるや否や、叩き落とされるのは実に早かった。

「それで全く期待されなくなっちゃった雛に周りがしたことは、まぁ簡単に言えばネグレクト。意味分かるかな?要は育児放棄」

割と衝撃的なことを、ごく普通にサラリと言ってのけた男は、そのまま思い出したように言葉を続ける。

「あ、でも一応衣食住はそれなりになんとかなってたみたいだよ。だけどそれだけ」

あれじゃ成長するものもしやしないと、両手をわざとらしく左右に広げた男は、大袈裟に首をすくめて見せた。

「後は、誰も構わない教えない伝えない話さない。だから雛は必要最低限の知識すらある程度しか知らない」

そのくせ、霊感だとかごく普通の子供に比べれば余計な力を持ってしまった為に、爪弾きにされてしまった幼子は、幼稚園に通うと言う選択肢も持てない。

他者と関わることで成長する人にとって、あびの居た場所は何かを知るには不十分過ぎた。

「平仮名とか簡単な文字が読めるのはね、時々雛の姉が教えてたからだと思う。ただどうも言葉の意味までは教えてなかったみたいだね。まぁ、」

少し前を振り返ってみれば、持っていた己の感情は、そう確か、誰にも見向きもされない子供が、この先どう生きて行くのか眺めるのは、多少の退屈しのぎくらいにはなるかもしれない。

ただそれだけだった。

けれどその考えを完膚無きまでに払拭させてしまうほど、

「あれで性格悪ければほっといたんだけど、そうもいかなくてね。ほら、雛ってびっくりするくらい良い子でしょ?あの環境に居てどうしてあんな風に育ったのか疑うくらいに。だからつい構いたくなっちゃってねぇ」

自分を「御上」と呼ぶ連中の中、特別に「上さん」と割と砕けた呼び名で呼ぶことを許してしまうくらいには。

「正直な話、君達には悪いけど、雛の姉が居なくなった時チャンスだと思ったんだ」

あびの姉が失踪したと知らせを受けた時、歴史修正主義者がどうのこうのとか、先の未来の心配よりもまず先に、あの小さい童女の姿を思い浮かべてしまったのだから仕様がない。

「丁度雛をあの家から引き離してあげるには如何すれば良いか考えてたところだったし。…………それが例え九十九神でも、誰かと関わる機会を持って欲しかったんだ」

「まぁ状況は誰かさん達の所為で最悪だったけどねぇ」とチラリと清光に投げかけられた視線を無視する。

若気の至りってことで。

そんな時間経ってないけど。

「それ抜きにしても雛の姉がね、個人的にそんなに好きじゃなくてねー。性格悪いって訳じゃないんだけど、なんかさ、合わない?って言うの?そんな感じで。いや別に探してない訳じゃないからね?!一応ちゃんと探してはいるよ?好きじゃないけど、」

「つまり旦那はロリコンだったと」

「ちょっと誤解招くような言い方止めてくれない薬研くん?!」

と言うかそれ言うなら君達なんか遥かにロリコンだからね!

もう年の差の桁が違うから!

とかなんとかぶつくさ言った後に、

「まぁいーやそんなところ。分かった?」

気を取り直して首を傾げた男に、笑いかける薬研。

「嗚呼」

「不本意だけど君達には雛のこと任せたいから、護ってあげてほしい。頑張り屋なだけで本当は酷く脆くて弱い子だから」

「そんなの言われなくてもやってやるよ」

「ふーん」

「なんか文句あるわけ?!」

ニヤニヤとした雰囲気を醸し出した鏡の主に、憤慨する清光は、

「どうどう、あー……教えてくれて感謝するぜ。ありがとな」

「どう致しまして」

薬研に落ち着けと宥められ、唇を噛み締めた。

「んじゃ、ばいばーい。出来るなら二度とその顔見たくないけどねぇ」

「こっちだってお前の顔なんか見たくないから!!!!」

「よく見やがれ加州、この御人顔隠してるぞ」

「〜っっ、分かってる!!!!」

ピースサインをした鏡に映る男が消え、顔を赤くした清光とそれを抑える薬研が映る。

「腹立つなんなのあいつ!」

「まぁ、知りたいことは教えてくれたしいーじゃねぇか」

「良くない!!!!」

苛立だしげに頭をガシガシと掻きながら「もーあび!なんなのあいつ!」と清光が飛び出し、未だ眠っているであろうあびの元へ駆け寄って行くのを眺めながら、ボソッと薬研は、

「愛されてんな大将」

と半ば呆れ半分で口角を上げた。
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