□おひさま紙風船
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澄んだ青空に太陽が浮かぶ絶好の洗濯日和。

いい天気だからと、この機会に普段はあまり洗わない物も洗濯してしまおうと言う光忠の指示の元、本丸中一斉洗濯大会が行われた。

それに嘆いたのは何を隠そう、

「俺のはいい!!!!やめ、止めろ!!!!!止めろぉぉおおおお!!!!!!!」

山姥切国広その刀である。

彼が常時片時も脱ごうとしない白い布は、今回もそのままかと思いきや、そこは譲らない光忠。

何かのスイッチが入ってしまったらしい燭台を切ったと言われる刀は、

「汚いからね」

と口元だけ笑わせて、呆気なく山姥を切ったとされる(但し模倣)刀のアイデンティティーを剥いでしまった。

オロオロと代わりの布を探そうにも、いかんせん洗濯大会真っ只中。

どこを探しても布の1枚すらない。

まさか予備のシーツまで洗ってしまうとは、誰が予想出来ようか。

完全に逃げ場、基、逃げ布を無くした山姥切は、嗚呼、もう終わりだお仕舞いだと軽く鬱状態に陥っていた。

まるで此の世の絶望とでも言うように項垂れてしまった山姥切だが、しかし神はなんだかんだ居るもので、ポテポテと近くに、

「まんばちゃんどしたの?」

偶々通り掛かった審神者っ子。

普段滅多に見られない輝かしい目をした写しの刀は、

「でかした!!!!」

「ほっ?!」

ガバッといきなり起き上がった山姥切に、ポカンとするしかないあびだった。





「で、なんで主様は山姥切さんに肩車されてるの?」

「ぬの!!!!」

「あー……」

山姥切の肩に乗ってその頭に手を置いているあびに、「どうして?」と乱藤四郎が問い質せば、返ってきたのは実に完結した内容。

要は、

「布替わりね」

「文句は燭台切に言え」

事の首謀者に責任があると、我関せず状態の山姥切の上で、対比したような笑顔のあび。

「主様が嫌がってないみたいだから文句は無いかな」

「そうか」

割と肩車が楽しいのか、下の山姥切を気遣って足をバタつかせはしないものの、そんな感じの雰囲気を醸し出しているあびに、にーっと笑いかける乱藤四郎。

「楽しい?」

「たのしい!」

「そう、良かったね主様」

まだ時間掛かるみたいだよ洗濯、と、恐らくここに来た本来の目的である内容を告げた乱藤四郎は、少し先から聞こえる兄弟達の自分を呼ぶ声に振り返り、

「主様あとで僕とも遊んでね」

「うん!」

ヒラヒラ手を振って走って行った。

「まだ掛かるだと?!何でこんな目に……俺が写しだからか」

突き付けられた思わぬ現実に、負のオーラ全開の山姥切だが、ペシペシとあびに頭を叩かれる。

「まんばちゃんまんばちゃん」

「なんだ?」

「うつしってなーに?」

物凄い至近距離にあびの目があるのは、どうにかして覗き込もうとした結果だと思う、たぶん。

若干首が痛いが我慢出来るレベルなので何も言わないことにした。

「その、あれだ、模倣と言うか」

「もほーってなーに?」

「模倣は模倣……あー、真似………………っことか」

あびに合わせて簡単な言葉に変換してみたものの、ちょっと恥ずかしい。

この子供に合わせて普段話している奴等が、少しだけ凄いと思った。

「まねっこ」で分かってくれなければ、次はどう例えようかと悩んだが、今の説明で理解してくれたらしいあびは、「ほー」っと返して来た後に、次の質問を投げかけてくる。

「まんばちゃんまねっこ?」

「嗚呼、まぁ……な。だが写しではあるが偽物ではない」

写しだが、写しなりにプライドの一つくらいはあるから。

ボソッと言えば、己の頭を包み込むように抱き締めてきたあびもまた、ボソッと返してきた。

「…………まんばちゃんはあびとおそろいだね」

「は?」

「まねっこ」

「お前は何も模倣していないだろ。何の写しだって言うんだ?」

「ないしょ」

なんだそれは気になるじゃないかと聞こうにも、

「あ、居た。山姥切くんほら、代わりの布…………って、なんであびちゃん肩車してるの?」

「みっちゃんだ!」

白いシーツを片手にやって来た光忠にわーいと手を伸ばすあびに、問うことは出来なかった。
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