□おひさま紙風船
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「かねしゃん!」

「うおぉっ?!」

押入れを開けたら座敷童が居た。

正確には座敷童ではなく、この本丸の主なのだが、まぁ、似たようなもんだろうと認識する。

その小妖怪、基、あびが何故か、和泉守兼定の部屋の押入れに鎮座していたものだから、兼さん少ならからず吃驚した。

「なんだぁ?何でまた此処に居るんだよ」

「あのね、」

「あん?」

ちょいちょいと手招きされて耳を寄せれば、こしょこしょ声で、

「おりれなくなっちった」

えへ、と音付きでヘラっと笑わられれば、どう反応して良いのか分からない。

「そりゃあ、見れば分かる」

「ありゃ」

「しゅごーねかねしゃん!」と、ペチペチ手を叩いてニコニコ笑顔のあびは、恐らくも何も、

「国広の真似してんのか?」

「うん!ほりくんまね!」

自信満々に頷かれた。

「あー……んで?どうやって此処に上ったんだ?」

「ほりくんがのしてくりた!」

「なんで?」

「かねしゃんびっくりさせたい…………あっ!!!!」

「ほぅ」

さも失言しちまったやべぇやべぇと口を両手で抑えられれば、これがあびか若しくは堀川のちょっとした悪戯なことが丸分かりである。

筋書き通り吃驚してしまった手前、あまり言えはしないが。

対するあびは、あわあわと、どうしようと、無意味に両手を彷徨わせた後に、

「かねしゃんつんでれなの!!」

「はぁ?!」

と、またしても今度はあび本人無自覚の失言をかましてくれた。

「つ……ツンデレって、俺のどこがだよ!!!!」

「ね、かねしゃんかねしゃん」

「なんだぁ?」

「つんでれってなに?」

「知らないで言ってたのか」

「うん」

誰にそんな言葉を習ったか、容疑者候補が幾人か思い付くが、後でさり気なく暴いて締めてやろうと思う。

問題は[ツンデレ]をどう説明するかだが、

「あー、あれだ。アイツに聞け、太郎太刀」

「たろちゃんわかんないって」

逃げようと他者に回してみたが、推薦したのが悪かった。

と言うか既に聞いていたらしい。

行動早いなこの小娘。

と、思う。

「じゃあ、あの、短刀の」

「らんちゃん?」

「らんちゃん???あ、あー乱藤四郎のことか。そう、そいつ」

「むつかしくてよくわかんなかった」

何だかなんとなく光景が思い浮かべられる。

説明1割、残り余計な話で会話を進められたのでは無いかと推測する。

恐らく、ここで次郎太刀の名前を挙げても似たような反応が返ってくるだろう。

本丸のお喋り達は、あびが大人しく話を聞いてくれるからと言う理由で、しょっ中あびの元へ雑談しに行っているらしい。

「まぁ、その、意地を張りやすいと言うか照れ屋と言うか、」

「かねしゃんてれてれ?」

「ちげぇよ!俺は普通だ」

「ほー」

分かっているのか分かっていないのか、笑みを崩さないままのあびは、突然ずぃっと両手を此方側に伸ばしてきた。

その意図が不明で困惑すれば、

「あびね、おんりしたいのね、」

「お、おお」

「かねしゃんだっこして!」

「はぁっっ?!」

「早く早く」とまるで催促するかのように両手をパタパタやられるも、数回話したことはあっても、触れたことの殆ど無い手前、迂闊に触っても良いのか分からない。

正しい抱え方も把握していないし。

下手をしたら後が怖い。

小娘の後ろに控える奴等が、下手をしたら九十九神通り越して鬼と化してしまう。

だからと言って降りられないのも可哀想だし、そもそも堀川がまず初めに触れたのだろうから、まぁ良いだろうと無理矢理自分を言い聞かせ、その小さい身体に手を伸ばした。

「こ、こうか?」

「うん」

そっと抱えれば、耳のすぐ近くであびの声がする。

「えい!」

「おぉっっ!っぶねぇ、」

急に飛び付かれ、少し体勢を崩すも、元よりちびっ子が飛び付いたくらいではそこまで傾かない。

ゴロゴロゴロゴロと首元にまとわり付かれ、お前は猫かと言いたくなった。

「しゅごーねかねしゃん」

「おー」

何がだと問いたくもあったが黙る。

想像以上に脆いこの子供は、きっと自分が少し力を入れただけで苦しがってしまうだろう。

けれど半端に力を抜けば落っことしてしまうし、力加減が微妙に難しく、内心焦ってはいたが、

「なんか、あれだな」

「んー?」

「あったけぇ」

身体もだけれど、なんとなく胸の辺りがぼんやりと暖かい、不思議な感覚に囚われる。

「もう少し抱き上げてていいか?」

「ぎゅーする?」

「もうされてる」

「じゃあすりすりするー」

ぷくぷくした頬を擦り寄せられ、思わず「擽ってぇよ」と口角が上がった。

「かねしゃんしゅごーねかねしゃん」

「おーありがとよ」

「えへ」

その光景を、襖の陰で、

「やったね兼さん!」

と小さくガッツポーズをかまして覗き見る堀川に、兼定が気付くまで残り数秒。

常日頃から言葉にはしなくとも、なんとなくあびと仲良くなりたがっていた本人すら気付かない感情を、いち早く察知した故の行動であった。
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