□おひさま紙風船
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ずんずんずんずん、酒瓶片手に廊下を歩く。

まだ現世よりとはいえ、図体がデカいことに変わりはないから、彼一人歩くだけで異様な雰囲気がある。

けれどもそんなの気にしない。

楽しければ良いじゃない。

向かう先はただ一つ。

「あ、」

「おう、あび!!!!」

本丸の広間に居たあびを求めて、にっこり笑って参上した。

たろちゃんの、おとーとさんがやってきました。



「あの人は何て言うか……まぁ、鍛刀が苦手だったんだよ」

「そなの?」

「うん」

とある昼下がり、なんとなーく気になっていた疑問を、なんとなーく清光に投げかけてみたあび。

あびとて審神者をやると言われてから、自分なりに勉強はしてきたし、現在も足りない学を補う為に色々と教えてもらっているから、だいたいどんな刀が居るか把握していた。

そんな中、あびの居る本丸を眺めてみて一言。

「いないのたくさん?」

である。

基本は両親と、時々姉と暮らしていたあびなので、今でも充分大人数で暮らしていると思う。

が、皆個々に戦闘能力高すぎて紛れていたが、あれ、おかしくね?

刀帳の空白目立ってね?

あれあれ?

と、首を傾げていれば、偶々やってきた清光に、丁度良いからと質問してみた。

「力はあるんだよ力は。戦略とかも上手かったし、ただ、その、鍛刀の才だけは無かったみたいで、上手いこと良い感じに何本か作ったら、鍛刀しなくなっちゃったんだ」

若干遠い目の清光に、どれだけ姉に才能がなかったのか悟る。

鍛刀か。

蜂須賀を作った時と、同じ方法でいいのだろうか。

うん、とりあえずやってみる!

失敗したらその時はその時で、一回蜂須賀で成功しているあびは、元気よく鍛刀に掛かった。

その結果、やってきたのが次郎太刀である。



「もーそれがおかしいったらありゃしなくてねー」

「ほー」

「あ、あとあとこの間さ、」

「ちょっと聞いてあび!」と広間にやって来た次郎太刀の、物凄いハイテンションで語る話に尽きは無いのかと錯覚するほど、次郎太刀の口が止まらない。

広間であびと遊んでいた面々は、呆気に取られて次郎太刀を見ていたが、あびは律儀にその都度ふんふんと次郎太刀の話に頷いていた。

この次郎太刀が来てから、ことあるごとにあびの元へ話をしにくる。

その話題に制限は無いのか。

折角あびが「あそぼー」と構ってきたのに、いつの間にか横から掻っ攫われるから。

面白くないことこの上ない。

「あ、そーいや兄貴から聞いたんだけどさ」

「なぁに?」

話に一旦区切りをつけたらしい次郎太刀が、あびに新たな話題を投げた。

まだあるのかよ、とげっそりする一同だが、

「アンタつい最近までハブかれてたんだってね」

おいおいおいおいそれ言っちゃうか!!!!

広間に居た刀剣達は、恐らくそう同じことを思っただろう。

暗黙の了解と言うか、あの件を話題に出すのは止めよう。

もう過去のことだし、いちいち掘り返す内容じゃないし。

いまは和解したんだからいいじゃないかと、誰しもが黙っていたことを、サラリと言われてしまう。

所謂、墓穴だ。

ポカン顔のあびは、二、三度瞬きを繰り返し、それからあからさまにシュンとして、

「………………………うん」

あーあー落ち込んじゃった!

だから言いたくないんだよ。

と、他の刀達に動揺が走った。

あびにとって決して気持ちのいい話ではないから、十中八九この話をされるとあびは落ち込む。

どうするんだ?

焦る一同だが、特に顔色を変えない次郎太刀は、

「大変だったんだねー。ま、でもアタシが来たからには二度とそんな目には合わせないから」

「ふぇ?」

ポンポンあびの頭を叩いた。

「だって辛気臭いじゃんそう言うの!なんだっけ?あび派だったっけ、兄貴みたいなずっとあびの味方だった方?」

いや、それをあび本人に聞かれてもあび本人知らないからその派閥のこと。

キョトンとするあびを見て、なんで自分達がこんなにも慌てなくちゃいけないのだと、事の発信源の次郎太刀を恨んだ。

「兄貴とーあとあれでしょ、大倶利伽羅だったっけ?それから、あ、そうそう最近山姥切と鳴狐?だかもそれっぽいらしいじゃん」

「そなの?」

こてんと首を傾げるあび。

一人二人と数えていた次郎太刀は、だけど何故か急にハッと真顔になり、

「あび大変だ。この組み合わせ……………………………あび派と言うか、……………………[チーム無口]?!だはははははは!!!!いーねぇチーム無口!!!!ダサくていーわ。ね、これからチーム無口にしよー、ね?」

「お……お?」

何だかよく分からないらしく困惑するあびを余所に、自分で言った事に自分でツボったのか、笑い転げる次郎太刀。

テンション高いなぁ、おい。

若干諦めムードの漂う室内に、

「何をしているのですか?」

急に現れた助け舟。

完全に置いてけぼりにされて、ぽけーとしたあびと、遠い目をした他の面々、それから一人笑い転げる次郎太刀を視界に入れて、太郎太刀は眉根を寄せた。

「お、おう兄貴、チーム無口会ちょ、ぶっふぉっふぉ」

「かいちょ???」

「は?」

「チーム無口とは?」と聞き返す太郎太刀に、笑い過ぎてひーひー言いながら、たったいま自分が思い付いたチーム名について説明する。

「ほぅ……」

太郎太刀の目がスッと細められたのは、きっと気のせいじゃないと思う。

次郎太刀、笑ってる場合じゃないぞ。

早く逃げろ。
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