短編(過去作)

□めんどくさいのしんり
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可愛くて、それなりに勉強もできて、誰にでも分け隔てなく接する。
彼女は俺の自慢の幼なじみ。


俺の1日は、ぐずる彼女を引っ張り出すことから始まる。



「……やだ」

「やだ、じゃなくて。
今日はお前の嫌いな教科はない日だろ?」

「やーだー」

玄関でうずくまり首をふるふると横に降り続ける彼女。
制服を着込み、鞄にはきちんと教科書が詰め込まれた、あと一歩の所でいつも彼女は駄々をこねる。

「何でだよ?」

「……あつい」

唇を尖らせてそっぽを向いてしまった。
確かに今日は昨日より暑いけどさ。

「じゃあ学校着くまで扇いでやるから」

「めんどくさい」

そう。
これが彼女の本音だったりする。

「学校サボったらノート借りたりプリント先生に貰いに行ったり、もっと面倒だぞ」

背けていた顔を此方に向けて、探るようにじっと見る視線と目が合う。

「……じゃあ行く。起こして」

ゆるゆると差し出された手を軽く引っ張る。
起き上がらせようと背中に腕を伸ばした途端、繋いでいた方の腕を引っ張られた。

「うおっ」

辛うじて腕を床に移動させて体を支えたが、触れるくらいの距離に彼女の顔がある。

まさに目と鼻の先。
一応腕を引っ張ってみるけど、思いの外強く握られていて離れない。

「……あの」

「……」

「あのさ、ここ、玄関なんだけど……?」

誰か来たらどうするつもりだ。
この構図じゃ、俺が押し倒したみたいじゃないか。

「……やっぱりめんどくさいから一緒にさぼって」


「それは困る。練習あるし」

「……じゃあ行く」

ふっと腕を掴む力が緩んで、俺はすぐに起き上がった。
続いて彼女ものっそりと体を起こした。

「朝飯は?」

「……めんどくさい」

要するに食べてない。
まぁ、いつもの事だ。

「食べなきゃだめだろ!」

「えー」

「途中でコンビニ寄ってやるから、ちゃんと食えよ」


「……うん」


彼女のこの笑顔の為なら、こんな日課も苦じゃない、なんてな。





“めんどくさい の しんり”


ほんとはかまってほしいだけ


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面倒くさがり×福田

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